研究分担者 |
SHELEPA A.S ロシア農業科学アカデミー, 極東農業経済研究所, 所長
大矢 温 札幌大学, 外国語学部, 講師 (20275465)
山村 理人 北海道大学, スラブ研究センター, 教授 (60201844)
加藤 光一 北海学園大学, 経済学部, 教授 (60244836)
黒河 功 北海道大学, 農学部, 教授 (90125310)
岩崎 徹 札幌大学, 経済学部, 教授 (90104900)
佐々木 洋 札幌学院大学, 経済学部, 教授 (00074899)
塩沢 照俊 拓殖大学北海道短期大学, 教授 (00141002)
KATO Koich Faculty of Economics, Hokkai-Gakuen University
SHELEPA A. S ロシア農業科学アカデミー, 極東農業経済研究所, 所長
BAKLANOV P.Y ロシア科学アカデミー, 太平洋地理研究所, 所長
SHEINGAUZ A. ロシア科学アカデミー, 経済研究所, 副所長
坂下 明彦 北海道大学, 農学部, 助教授 (70170595)
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研究概要 |
本研究は、平成7年度ロシア極東のハバロフスクの農村調査および8年度同地方の補完調査と新規のアムール州農村調査をもって一応の終了となる。当初予定していた沿海州の調査は9年度事業として採択されている。 1989年の土地改革に始まる国営農場の組織改革と個人農の成立は、極東農村にも大きな変動を与えた。極東全体で個人農は1993年をピークに1995年末には13,540戸と約2,200戸も減少した。この傾向は個人農の連帯組織である農民経営協会(アコール)運営の危機として現れている。これは個人農の急増を支えた都市住民の参入が減り、既存入植者の離農による。この理由は生産資材の高騰と政府援助の後退、農産物需要の減退と市場対応の困難等による経営悪化に基づいている。残った個人農の経営確立が緊急を要する政策課題となっている。 他方、大農場では一定の経営合理化の努力による経営向上の一群と分裂・解体に向かう二つの流れがみられる。前者の農場は保有農業機械の多さ、経営技術と市場対応の有利性に支えられて発展の可能性が見出せるが、後者の動きは上の個人農と同じ理由から危機的である。しかし、その中で大統領令による旧国営農場が保有した社会施設の行政移管が進む中で地方財政の危機に伴い、学校等の公的施設を除いて他の施設は依然として農場の委託管理のまま放置され、そのうえ資金供給を求められるなど、農場の抱える経済負担の軽減は容易でない。 農業関連施設ではインフレによる生産費の高騰、市民の食料自給策強化(ダ-チャ・別荘の菜園)による需要減退のため、経営が悪化し、原料搬入の抑制や操業停止に追い込まれる企業もある。外国産野菜の輸入増加が続く中で農産物調達機関でも地場産の受入れ制限を行い、これが大量供給の農場経営に打撃を与えている。 アムール州は作付耕地140万ha、穀物、飼料作で計約70%を占める極東随一の大規模な穀菽農業地帯である。農場、個人農のいづれの経営規模も相対的に大きく、うち、個人農は1992年の615戸から1994年に3,385戸へと急増し、96年には2,330戸に減少したが、1経営当り113ha('96)と極東最大の規模を誇っている。調査対象の地区は州都ブラゴベシチェンスクから西北約50kmにある17の農場、295の個人農を擁する集落である。 調査した農場は、(1)穀作、大豆、野菜、酪農部門を持つ構成員400人の有限会社、(2)アコールの指導で設立された飼料調整、製粉、製油、パン、ビール等の加工部門をもつ25戸の協同経営、(3)大豆原種農場として種子大豆を専門に供給する農場、(4)穀作、飼料用大豆、畜産部門をもつ構成員380人の協同農場の4ヵ所であり、個人農は酪農、畜産、養蜂、穀物、大豆、飼料などと個別に、あるいは複合的に経営する多様な8事業体を調査した。 旧国営農場では、制度改革による土地配分はほぼ終了し、脱退者に対して土地を予め指定する農場もあるが、構成員の変動が少なく、脱退者はないという、経営組織は生産隊(ブリガード)の独立採算を基本とし、中にはこれらとの請負耕作を行う農場もあって、その運営形態は弾力的であり、かつ流動的である。農産物販売は現金決済を主としながらも、生産資材の入手難からは多くは商品クレジットによる決済方式を導入している。 アムール州における農業生産の特徴は、農場・個人農ともに飼料穀物と畜産の複合経営が支配的であり、農場ではこれに関連加工施設を加えた総合的な経営組織が一般的であった。穀物市場へのアクセスは州内は粗飼料のまま出荷しながらも、域外へは加工した濃厚飼料として出荷するなど農産物の高次加工への努力がみられる。 以上の調査から今後の農業再生の課題は、これからも政策援助が期待されないとして、新設個人農と農場が各々あるいは相互間で、生産から販売にいたる協業への組織化が求められており、投資と経営資源の効率的活用、より高い経営技術の習得が必要であろう。いまロシア極東の農業改革は始まったばかりで、その行方を判断することは容易ではない。だが、その変動過程は明らかに地域農業の構造格差に規定されており、ハバロフスク地方を中心として、より大規模農業地帯のアムール州農業が対置している。零細で、市場対応型の沿海州およびサハリン州の農業構造の分析を俟って、市場経済移行下の極東農村の当初の課題が解明されるものと考える。
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