研究概要 |
平成8年度の研究成果の概要については,リオ・ネグロ川の水位の年変化特性を中心に述べる。 第1に,マナウス地点におけるリオ・ネグロ川の水位は,6〜7月頃に最高となり,10〜11月頃に最低となる。水位は11月頃から上昇に転じ,約8か月間を要してゆっくりと最高値に近づき,7月頃から約4か月間という短い期間の内で再び最低値にもどる。このように各年の水位は,主要因としては流域の雨季と乾季の降水量に反映されて,滑らかなサインカーブのように見える規則的な年変化をくり返す。この規則性は,20年平均のカーブで示すことによってより明瞭に見てとれる。 第2に,年間を通しての最高水位の出現日は,1975年から1995年までの21年間の平均を算定した結果,6月22日となった。この間,最高水位の出現日の頻度は,10日間の間隔ごとに見ると次のようにほぼ正規分布を示す形で現れる。5月中:1回,6/01-6/10:3回,6/11-6/20:4回,6/21-6/30:8回,7/01-7/10:4回,7/11-7/20:1回。最高水位の出現日の最も早かったのは,5月20(1992年)であり,最も遅かったのは,7月16日(1986年)である。この間の開きは,約2か月である。なお,最高水位に達する日数は,多くの年の場合,2〜4日間程度は続くので,その間の第1日目を最高水位の出現日として採用した。 第3に,年間を通しての最低水位の出現は,1975年から1995年までの21年間の平均を算定した結果,11月7日となった。この間,最低水位の出現日の頻度は,10日間の間隔ごとに見ると次のように現れる。10/01-10/10:1回,10/11-10/20:3回,10/21-10/31:5回,11/01-11/10:4回,11/11-11/20:2回,11/21-11/30:4回,12/01-12/10:1回,それ以降1回。最低水位の出現日の最も早かったのは,10月08日(1980年)であり,最も遅かったのは,暦年を越えた01月16日(1989年)であった。この間には,3か月余りの幅がある。最低水位の出現する期間の幅は,最高水位の出現する期間の幅よりも約1か月延びく。しかも,最低水位の出現日の頻度は,最高水位の出現日の頻度に比べてバラツイており正規分布を示す形ではない。上に示したとおり,最低水位が比較的多く現れる時期は,10月
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末期と11月末期の2つの時期に分かれていることが認められる。なお,最低水位に達する日数も,多くの年の場合,2〜4日間程度は続くので,その間の第1日目を最低水位の出現日として採用した。 第4に,上記の21年間の年最高水位の平均値は,27.91m,年最低水位の平均値は,18.30m,これら両者の差は,9.61mである。 第5に,この21年間の水位の年変化の中で,1992年の変動は他の年のものに比べてかなり異なっている。その第1は,年間を通しての最高水位の値が他の年に比べて小さく(25.42m),しかもその値が他の年よりも早く現れている(5月20日)ことであり,第2は,年最高水位と年最低水位(17.56m,11月11日)との間の変動幅が7.86mと小さいことである。なお,マナウス港管理局の水位観測記録によると,1903年以降の観測史上,年最高水位がもっとも小さかったのは1926年の21.77m(7月5日)であった。同年の最低水位は14.54m(10月12日)であり,従って年最高,年最低の水位差は7.27mであった。 第6に,1989年の最低水位の出現経緯は他の年に比べて特異な現象を呈した。すなわち,水位は11月末に一旦は低下するが,その後上昇に転じ,11月の末から再び低下を続けて翌1990年1月16日に最低水位に達した。 加えて,ソリモンエス川の流量がリオ・ネグロ川の流量をはるかに上まわっているために,ソリモンエス川の水がリオ・ネグロ川の流れを堰止める一種のダム的機能を派生させているのではないかと暗示させる。この下線部の疑問を解くための考察を試みた。 その結果,第1に,ソリモンエス川の流出量は,リオ・ネグロ川の流出量に比べれ圧倒的に大きい。平均値で見ると,前者の値は後者の値の約2.4倍(6月中旬〜7月初旬のピーク時)から6倍強(流出量の少ない1月)の状態にある。つまり,流出量の大小に見られるとおり,ソリモンエス川の方が,リオ・ネグロ川に比べて明らかに主力・支配河川である。 第2に,10月以降,ソリモンエス川の流出量は1976年,1980年,平均値ともに増加の方向に転ずる。他方,10月以降のリオ・ネグロ川の流出量は,各年次および平均値とも増加の方向に転ずることはなく,引き続き降下の方向をたどる。 第3に,10月以降,リオ・ネグロ川の流出量が降下を続けるなかで,同河川の水位変動はどのように現れるか。流出量の減少にもかかわらず,水位の方は上昇に転じている。しかも上昇に転じる時点は,1976年,1980年ともソリモンエス川の流出量が上昇に転ずる時点と期をいつにしている。 第4に,マナウス地点のリオ・ネグロ川において,特に10月以降,流出量が減っているにもかかわらず,水位が上昇しているということは,リオ・ネグロ,ソリモンエス量河川の合流地点において,支配河川となるソリモンエスの流勢が勝り,劣性のリオ・ネグロ川の流れを押しとどめ,その結果,リオ・ネグロ川の流出量は減少をたどるにもかかわらず,水位の方はソリモンエス川の流出量の増加に対応して上昇に転ずる。このことにより,合流地点より上流のマナウス付近のリオ・ネグロ川は一種のダム湖的な現象を呈す。 なお,上の第4の点に関しては,実際に10月末〜11月初の最低水位期において,マナウス地点のリオ・ネグロ川の流速はきわめて緩慢となり,対して合流地点におけるソリモンエス川の流勢・流速は際だって大きい。両河川の実流速の相違は,今後の実測を待って示してゆきたい。 隠す
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