研究分担者 |
久田 健一郎 筑波大学, 地球科学系, 講師 (50156585)
長谷川 四郎 北海道大学, 大学院・地球環境科学研究科, 助教授 (90142918)
鈴木 徳行 北海道大学, 大学院・理学研究科・地球惑星科学, 助教授 (00144692)
小泉 格 北海道大学, 大学院・理学研究科・地球惑星科学, 教授 (20029721)
BARINOV K. ロシア科学アカデミー地質学研究所, 属序研究部, 研究員
GLADENKOV Yu ロシア科学アカデミー地質学研究所, 属序研究部, 部長
BARINOV K ロシア科学アカデミー地質学研究所, 層序研究部, 研究員
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研究概要 |
平成7年度の樺太南部地域新生界の試料分析が進み,まず,マカロフ地域の最下部鮮新統産貝類化石のオオマルフミガイ二枚貝(Cyclocardia crebricostata)化石中に大量の幼生化石を含む個体を発見し,さらに同種の歯の転移個体を認め,それらの古生物学的意義について学会講演した。また,関係者の協力を得てオホーツク海拡大に関連する玄武岩類のAr-Ar法等の年代測定を行った結果,チェホフ層の4試料とも22-23Maの間の値に集中する事が判明した.さらに微化石では,渦ベンモウソウと花粉の生層序によってマカロフ地域の中部中新統中に大きな年代ギャップがある事を初めて明らかにし,また中期中新世の最温暖期の層準が特定できた事,加えて中新世と漸新世の境界も明確になった.珪藻化石は続成作用の影響のためか産出状況が悪いが,円山層の下部のKR-11試料がDenticulopsis hyalina帯に対応する事が判明し,貴重な珪藻化石年代決定の一つになった(これらの成果は1996年6月と1997年1月の日本古生物学会で発表). 平成8年度は樺太地域の新生界を代表する最北端部のシュミット半島地域新生界を対象に現地調査及び試料最終を実施した.調査地域は無人のため,ロシア側の準備でキャンプ生活一式を調達し,オハからヘルコプターをチャータ-して現地入りした.調査は事前の検討結果を踏まえ,シュミレット半島の北岸(調査前半)と西岸南部(後半)の異なる2つのルートを選択した.前半部ではマリ-イ岬からマチガル湖にいたる約10kmの海岸部に連続的に露出する新生界(マチガルルート)について,100分の1地質柱状図,5000分の1ルートマップを作成しながら,貝類や微化石の系統的な試料最終を行った.また後半部では前半部のキャンプ地から再度ヘリコプターで移動し,前半でカバー出来なかった,より上位層について,ボルドナヤ川河口付近から南の海岸沿い約15kmにわたり露出する中新統一鮮新統(ピルバルート)を,前半と動揺に調査した. 平成8年度の日本側全体の採集試料は350産地の約350kg重量に達し,その大半は微化石・地球化学分析用である.試料は分割して有孔虫,珪藻,渦ベンモウソウ,花粉などの分析に当て,さらに重鉱物分析,地球化学的な分析なども実施している. シュミット半島地域のマチガル層の貝類化石は本邦漸新世の浅見動物群と多くの共通した種が認められ,これらは始新世末期の地球規模の寒冷化に対応後の30Ma頃の群集であると判断できる.珪藻化石からはピルバルートのピリ層下部がDenticulopsis hyalina帯(中部中新統)に対比される事が判明した.さらに底世有孔虫化石は平成7年・8年度ともにほぼ分析が終わり,マカロフ地域で4群集,シュミット半島地域のマチガルルートで5群集,ピルバルートで3群集など,多くの特徴的な群集区分が識別された.これに基づいてシュミット半島の2ルート間の対比だけでなく,樺太南部地域や本邦新生界との具体的な対比が議論できる段階になった. 地球化学的分析はサハリン南部コルサコフ地域、中部マカロフ地域、北部シュミット半島地域の第三系珪質シルト岩を分析中で,既にこれら珪質岩には珪藻の細胞壁脂質に由来するステロイド炭化水素が含まれている事が判明している.日本の新第三系女川層の珪質シルト岩の一部には現生珪藻に乏しいノルコレスタンを豊富に検出しているが,ノルコレスタンの先駆物質である炭素数26個のステロールは融点が低く,ノルコレスタンの存在度は水温低下時に細胞硬度を調整した珪藻生理を反映したものと考えている.現生珪藻のステロール組成と白亜紀以降の珪質シルト岩のステロイド炭化水素組成比較に基づく珪藻類の進化を生物地球化学的な視点から解明するため、サハリン試料の分析結果は意義深いものになると確信している. これらの生層序や化石群集の特徴と堆積相などに基づき樺太の北部と南部,およびそれらと北海道新生界などとの対比が一層明確になり,オホーツク海地域新生代の古環境変遷とその時間・空間的広がりや古環境変動の要因などがより詳細に把握されつつある.これら日本側の成果は,ロシア側の成果と相互検討して,近年中にその結果を公表する予定である.
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