研究概要 |
本研究計画の第一の目的であるパラオ諸島への広帯域高性能地震観測点の建設は無事終了した.初年度には,観測点設置地点を選定するための1995年7月に現地調査を行い,観測点候補地の決定とパラオ側の窓口及び両者の協力に関する合意事項の確認等を行った.しかし,同年11月に入り,パラオ側の都合により観測点設置場所の変更は余儀なくされ,現在の場所に観測点を作ることとなった.現在の観測点はパラオ共和国コロール島内の中心部に位置する.旧日本軍の防空壕を改修・整備し中に地震計室とデータ収録室を設け,データ収録室までは電話回線を引き込んでダイヤルアップによるデータ回収が出来るようになっている.さらに,現地にバックアップ用の磁気テープ収録装置も用意し連続データの収録を行っている.地震計を設置した防空壕は,地表から約1mほど地下に潜った所に幅3〜4mで総延長約40mのトンネルで,その途中もしくは横に幾つかの部屋がある形になっている.地震計は防空壕奥の部屋をドアで仕切り中に地震計台を作って設置した.地震計室の上には少なくとも1m以上の土が被さっており,さらに部屋の前後を3枚のドアで仕切って温度変化を抑えるようにしてある.1996年3月には同観点側に広帯域高性能地震計(Streckeisen社製のSTS-1V/VBB1台及びSTS-1H/VBB2台)を設置し観測を開始した.また,第2年度には,パラオ共和国側の研究協力機関であるパラオコミュニティーカレッジ(PCC)の研究室にもデータ収録のための装置を設置し,電話改選を通じてダイヤルアップによるデータ収録を行い,光磁気ディスクへデータを蓄積するようになっている. パラオ共和国側及びPCCの研究者と打ち合せを行った1995年当初は,観測点を設置したコロール島内に光ファイバーによるインターネットの敷設が進行しており,完成の折りには本計画の観測点でもコンピュータネットワーク接続が可能となるようパラオ側で準備することを確認した.残念ながら,インターネットの敷設計画は同共和国の主要な橋が崩落するなどの事故もあって遅々として進んでおらず,本研究計画の終了までには間に合わなかった.しかし,海外,特に開発途上国では,最近のネットワーク関連の急速な技術革新・展開により通信ネットワークの整備が進んでおり,今後,海外への観測点設置にあたってはインターネットなどの通信ネットワークの利用も可能なデータ収録システムを準備し,このような環境整備に即座に対応できるより柔軟性のあるものを当初から考える必要がある. 観測点整備の進行と平行して,西太平洋地域のプレート境界やプレート境界周辺部で発生した地震の震源過程の解析を行い,特に1994年三陸はるか沖地震及び1995年兵庫県南部地震について断層運動の詳細を明らかにした.また,三陸はるか沖地震の断層運動は,太平洋プレートが日本列島下にもぐり込む際の海洋プレートと大陸プレートのプレート境界面でのカップリングの様子を反映していると理解されることが示された.さらに,地球内部構造に関しては,全地球規模のP波のデータに基づいて,マントルの3次元的な速度構造を調べ,西太平洋地域に沈み込むスラブの様相を明らかにした.また,P波及びPcP波のデータを用いたインバージョンにより,特に,コアーマントル境界付近の構造が明らかになった.これらの研究成果は,論文として既に公表されたり,論文として印刷予定になっている. 本研究計画で得られた観測データは,今後,東京大学地震研究所の海半球観測センターのデータセンターを介して,世界中の研究者に公開される.今回,パラオに設置した地震計は広帯域・高ダイナミックレンジのものであるため,そのモニター記録を監視するだけでも,環太平洋地域に発生する地震のおおよその規模を推定でき,パラオに津波をもたらす地震であるかどうかの判断材料となる.
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