研究分担者 |
MWAPE L.M. ザンビア水産庁, タンガニイカ湖支所, 所長
MUDENDA H.G. ザンビア水産庁, 中央研究所, 所長
木村 清志 三重大学, 生物資源学部, 助教授 (00115700)
近藤 高貴 大阪教育大学, 教育学部, 助手 (50116159)
山岡 耕作 高知大学, 海洋生物教育研究センター, 教授 (20200587)
幸田 正典 大阪市立大学, 理学部, 講師 (70192052)
柳沢 康信 愛媛大学, 理学部, 助教授 (90116989)
バソンジ G. タンザニア水産研究所, 所長
ムワッペ L. ザンビア水産庁, タンガニイカ支所, 所長
ムバンバ M. ザンビア水産庁, 中央研究所, 所長
須之部 友基 千葉県立中央博物館, 主任技師 (00250142)
桑村 哲生 中京大学, 教養部, 教授 (00139974)
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研究概要 |
本調査研究では,タンガニイカ湖のシクリッド科魚類を中心とする魚類群集を対象に,群集内に存在する様々な種内多型に注目し,種内多型に関わる種間関係が,群集の多様性の維持に果たす役割を具体的に解明することを目的とし,ザンビア国ムプルング周辺において,以下の調査を2年間に渡って行った. 1)岩礁域の湖底に調査枠を設定し,刺し網を使ったサンプリングを行い,魚類の種類組成と魚種毎の個体群サイズを査定した.また各魚種について胃内容分析を行い,その結果に基づいてこの群集の食物網を解明した.またその食物網の解析を行うことによって,魚類群集の構造把握を試みた. 2)各魚種の生息場所の利用様式,産卵・保育行動,配偶システム,摂食行動についてスキューバを使った詳しい潜水調査を行い,また地域間でその比較を試みた.種内多型を示す魚種については,各型ごとに行動を観察し,それらの種の生態・形態の違いとそれをとりまく魚種との関係が,群集構造と安定性に及ぼす影響を検討した. 3)特に,群集構造にとって重要な位置を占める魚種については,個体群内の多型とそれが他種に及ぼす機能を解明した. その結果得た特筆すべき成果としては以下のような点である. まず,鱗食魚に限らず全ての魚種が左右性という種内多型を持っていることが分かった.そこで,魚類群集におけるその意味を解明するために,子育てしている魚の親子を採集し,また各魚種の体長別の左右性の比率を2年間に渡って調べた.その結果,次のことが解明された. 1)十分な親子のサンプルを集めることのできた数種については,この左右性が遺伝形質であることが確かめられた.全ての場合で,観察された子どもの利き手の比率は右利きを優性とする単純なメンデル遺伝として説明できた. 2)ほぼ全ての魚種で,左右性の比率は体長に応じて大きく変動しており,この比率が年変動していることが示された.そこで2年間の比率の変化を検討したところ,この比率は鱗食者と同様,数年周期の振動をしていることが予測された. 3)その比率の変動は分類群グループごとに同調する傾向を示した.鱗食魚以外は稚魚〜幼魚期の生活様式の類似でグループ分けした方が同調の程度は良いようであった.これは,この時期の個体群過程が左右性の比率を決めていることを意味し,従ってこの比率の振動を引き起こしているのは稚魚〜幼魚期の主な死亡要因である捕食-被食の種間相互作用であることが強く示唆された. 4)主な魚食魚の胃内容を分析し,胃から丸ごと魚が出てきた場合を検討したところ,右利きおよび左利きの魚食魚はそれぞれ自分とは逆の利き手の魚を多く食べていた.従って,魚食魚にとっては利き手は得意な襲う方向を,被食魚にとっては上手く警戒を向けることのできる方向を意味していると考えられた. 5)従って,各魚種の左右性の比率が振動するのは,多数派の利き手の被食者が主に警戒をむける側から襲う魚食者の捕食成功率が下がり,逆の利き手の捕食者が有利になること,すなわち捕食-被食の種間相互作用が頻度依存的にそれぞれの利き手の捕食者と被食者に働くことによると考えられた.また,各生活様式のグループの左右性の比率が同調して振動するのは,この捕食-被食の種間相互作用において,頻度依存的な有利・不利さは種の違いを越えて生活様式を同じくする魚種が共有するためと考えられた. 6)全ての魚種で左右性が遺伝形質と考えて集団遺伝学的な検討をしたところ,それぞれの利き手の遺伝子は各個体群中で数年間に0.9〜0.1の頻度で増減を繰り返していると予想された.このことは各個体群の遺伝的組成が各時点の有利・不利に応じて激しく入れ替わりながらも,長期的には安定して維持されていることを示唆している. 7)以上を総合すると,左右性という種内多型が捕食-被食の相互作用を通じて,群集の多様性と安定性の維持に大きな役割を果たしていることが解明されたといえる.
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