研究課題/領域番号 |
07041149
|
研究種目 |
国際学術研究
|
配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 学術調査 |
研究機関 | 岡山理科大学 |
研究代表者 |
星野 卓二 岡山理科大学, 理学部, 教授 (10122392)
|
研究分担者 |
RAJBHANDARI ケイ アール ネパール森林植物調査局, 研究員
佐藤 雅俊 帯広畜産大学, 畜産学部, 助手 (60260402)
木場 英久 神奈川県立博物館, 学芸研究員 (50221966)
天野 誠 千葉県立中央博物館, 学芸研究員 (70250149)
荻原 保成 横浜市立大学, 木原生物学研究所, 助教授 (40185533)
高槻 成紀 東京大学, 大学院, 助教授 (00124595)
|
研究期間 (年度) |
1995
|
研究課題ステータス |
完了 (1995年度)
|
配分額 *注記 |
3,700千円 (直接経費: 3,700千円)
1995年度: 3,700千円 (直接経費: 3,700千円)
|
キーワード | ヒマラヤ / 高山帯草原 / イネ科植物 / カヤツリグサ科植物 / 細胞分類 / 地形的生育環境 / 短草型群落 / 採食 / Grazing |
研究概要 |
ヒマラヤ高山帯には家畜の食料源として重要なイネ科およびカヤツリグサ科植物が広く分布している。本研究ではヒマラヤ高山帯に生育するイネ科、カヤツリグサ科植物に焦点をあてて、系統分類、植生および生態について調査を行った成果について報告する。 1.系統分類学的研究 ネパール中部のゴサインクンドにおいて、イネ科およびカヤツリグサ科植物を中心とした約3000点の乾燥標本を現地で作成した。イネ科植物に関しては29属55種が確認され、Colpodium tibeticum Bor.,Festuca cumminsii Stapf.,Paspalum dilatatum Poirの3種は今回の調査で、ネパール高山帯で初めて分布が確認されたものである。また、Agrostis,Deyeuxia,Festuca属において159系統の根端細胞を染色体観察用に固定した。カヤツリグサ科植物に関しては650点の乾燥標本を作製し、7属35種を確認した。現在、約半数の標本について同定作業を進めている。染色体の分析用に221個体の根端細胞および成長点を現地で固定したものと、生植物を日本に持ち帰った。Kobresia nepalenseは生植物より、CTAB法で全DNAを抽出し、rbcL遺伝子の塩基配列の解析を行っている。また、5属28種の染色体数が明らかになった。Eleocharis,Fimbristylis属の3種は北半球に広く分布しており、染色体数および核型は本報産のものと同じであった。しかし、Carex,Kobresia,Cyperus属の25種に関しては本研究で初めて明らかにされたものである。特に、Kobresia属に関しては2n=50から2n=120までの連続した種間異数体が観察され、ヒマラヤ高山帯において本属が著しい種分化を遂げていることが明らかになった。 2.高山帯草原の植物相の解析 調査地はゴサインクンド近辺の南向き斜面で、海抜高度は4200mである。崖垂斜面の下部から上部に向けて長さ200m・幅1mのベルトトランセクトを設定し、ベルトに沿って5mごとに出現植物の被度と地表面の起状を記録した。ベルト上の第一優占種はKobresia nepalenseであり全42調査区のうち17調査区で優占していた。第二優占種はPotentilla contiguaであり11調査区で優占していた。第三優占種はKobresia pygmaeaであり5調査区で優占していた。これら3種が調査地周辺の主要な種であった。カヤツリグサ科やイネ科植物は地表面が比較的安定している斜面上部・中部を中心に生育すると考えられた。断崖から供給される礫が堆積する不安定な斜面下部ではカヤツリグサ科やイネ科植物の出現頻度は低く、主にPotentilla contiguaが斜面下部で優占していることが明らかになった。調査区内の出現種数は、斜面下部のPotentilla contigua 優占域では平均10.6種であったが、斜面中部のKobresia pygmaea優占域では平均24.5種にまで増大した。より上部のKobresia nepalense優占域では平均19種であった。これらの結果より、Kobresia群落は、Potentilla群落より出現する種数が多く、多様な群落構成をしていることが明らかになった。 3.高山植物群落におよぼす家畜の影響 垂直分布の調査により、2500m付近ではArundinella属が優占し、また4500m以上ではPoa属、Festuca属が優占するが、その中間部ではKobresia属が優占していた。これはヨーロッパや北アメリカの高山草地と違う点である。このKobresia群落は家畜により強度に利用されていた。家畜の影響は群落の構造や組成に影響を及ぼしており、採食に耐性のある匍匐型など草丈の低い種に有利に働いていた。地形の違いに応じてPotentilla属が優占する場所があるが、これは家畜が好まないため、Kobresia群落に共通に生育する種にサイズの違いが生じていた。このようにヒマラヤに特徴的なKobresia群落はヒマラヤ高山帯草地群落を理解する上で重要であり、その理解のために家畜の影響がひとつのキ-ポイントになることが明らかになった。
|