研究課題/領域番号 |
07041153
|
研究種目 |
国際学術研究
|
配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 学術調査 |
研究機関 | 国立科学博物館 |
研究代表者 |
松村 博文 国立科学博物館, 人類研究部, 研究官 (70209617)
|
研究分担者 |
SUBHAVAN Vad マヒドール大学, 先史博物館, 研究官
茂原 信生 京都大学, 霊長類研究所・系統部門, 教授 (20049208)
|
研究期間 (年度) |
1995
|
研究課題ステータス |
完了 (1995年度)
|
配分額 *注記 |
800千円 (直接経費: 800千円)
1995年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
|
キーワード | 古人骨 / ゴ-ト洞穴 / サイヨック / タイ / 完新世初頭 / 中石器時代 / ホアビン文化 |
研究概要 |
日本の基層集団である縄文人が東南アジアを原郷とする古モンゴロイド集団に由来するという仮説が提唱されている。しかしながらこの仮説を実証するには、東南アジアにおける先史時代人骨の形質人類学的研究が非常に立ち後れており、特に研究の鍵となる後期更新世から完新世初頭にかけての人骨資料が著しく不足している。古人骨と考古遺物の人類学的・考古学的分析によって、古モンゴロイドの進化・移動の過程を検証することが大きな課題となっている。そこで本プロジェクトでは、タイの石灰岩洞穴遺跡に焦点をあて、特に資料の乏しい完新世初頭人骨の収集に取り組むこととした。 今回の調査ではタイ王国カンチャナブリ県北部のサイヨック地域ナムトック村に位置するゴ-ト洞穴の発掘を行った。本洞穴では、今回のタイ側研究分担者であるマヒドール大学先史博物館のV.Subhavan研究官が、同S.Sangvichen名誉教授とともに1986年に新石器時代の埋葬人骨をすでに発見している。今回の発掘での最大の関心は、その下層の完新世初頭のホアビン文化の包含層である。発掘調査は約2週間にわたって行われた。研究者は日本側からは形質人類学を専門とする松村と茂原の2名である。タイ側からは考古学者であるマヒドール大学のSubhavanである。また研究協力者として同大学のPramankij技官にも現地に赴いてもらい、発掘の専門的技術支援を仰いだ。さらにカンチャナブリ県バンカオ博物館のSunan館長(考古学専攻)が今回の発掘に特別参加した。現地人約4名には発掘調査の補助をしていただいた。 発掘調査のためのグリッドは2メートル四方とし、全部で4グリッド、16平方メートルを設定した。位置は洞穴の開口部に近い中央付近である。この4グリッドのうち1グリッドは、1986年に発見された新石器時代の墓壙にかかる。発掘の結果、洞穴後方の2つのグリッドからは、人骨はおろか考古遺物もまったく検出されなかった。またおよそ80センチほどで底の岩盤に行き当たってしまった。一方、前方に設けた2つのグリッドからは、およそ50センチの深さで新石器時代の土器、1メートルほどの地点から手札サイズの片面加工されたれき石器が数十点検出された。材質はすべて石英ひん岩であった。同じ層位から1体の人骨が発見された。残念ながら保存されていたのは下肢のみであった。脛骨と腓骨は解剖学的位置を保っていた。この他、およそ1メートル30センチほどに至って動物骨が大量に検出された。1メートル50センチほどで基盤に達した。なお洞穴前庭部からは旧石器時代のもと推定される数点の大型のれき石器を表面採取した。 以上の発掘された考古遺物、人骨および動物骨はすべてバンコクのマヒドール大学に持ち帰り、SubhavanととPramankijが中心となって、整理、クリーニング、復元などの作業にあたった。松村と茂原は人骨の形態学的分析をおこなった。また1986年に発見されている新石器時代人骨も放置されたままであったので、復元と計測、写真撮影をおこなった。今回発見された石器はベトナムのホアビン文化のものに対比されるものであることが明らかになった。従って、それに伴って検出された人骨も、中石器時代、すなわち完新世初頭の時期のものと推定された。先に発見されている新石器時代人骨ともあわせて、カンチャナブリ県のバンカオ遺跡から発見されている新石器時代人骨と形態的に大きな違いは認められなかった。同定された動物骨は、ウシ科、シカ科、イノシシ類、ヘビ類、カメ類である。すべて人為的に持ち込まれたとみられる。石器や動物依存体から、本洞穴遺跡は、先史時代人の墓域としてのみ使用されたのではなく、慣習的に居住域として利用されていたことが確認された。また旧石器と推定される大型のれき石器についても形態の分類と記載をおこなった。今回の調査ではヒトに関しては残念ながら下肢骨のみしか発見できなかった。当地域のポピュレーションヒストリーの解明には、研究の鍵となる頭骨の発見が期待される。当地域には数多くの石灰岩洞穴が存在するので、中石器時代のみならず旧石器時代の保存の良い化石人骨の可能性は十分にあることが明らかになった。今後の調査に発見を期待したい。
|