研究課題/領域番号 |
07041157
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 学術調査 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
林 良博 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 教授 (90092303)
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研究分担者 |
JOSHI D.D. ネパール動物食品衛生研究センター, 所長
川村 義治 (川村 善治) 日本蛇族学術研究所, 所長 (30109855)
鳥羽 通久 日本蛇族学術研究所, 主任研究員 (40109856)
D.D Joshi ネパール動物食品衛生研究センター, 所長
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研究期間 (年度) |
1995 – 1996
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研究課題ステータス |
完了 (1996年度)
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配分額 *注記 |
5,600千円 (直接経費: 5,600千円)
1996年度: 2,800千円 (直接経費: 2,800千円)
1995年度: 2,800千円 (直接経費: 2,800千円)
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キーワード | 毒蛇咬症 / 疫学 / ネパール / ヘビ類 / 治療血清 |
研究概要 |
ネパール南部のテライ地区は、インドとの国境に沿って東西に細長くのびる低地でガンジス平野の北のはずれにあたる。ここで2年にわたって毒蛇咬症の疫学調査を行った。まず22カ所の病院を訪れ、主に最近1年間の咬症データを調べた(東部と西部では1年のずれがある)。1180件ほどが確認され、このうち死亡例は29で死亡率は2.5%だった。ただし病院によってデータの精度に差があり、また数年間にわたる資料の得られた病院では年による咬症数や死亡数のばらつきが非常に大きい。咬症の起きる季節は6月から8月の雨期がほとんどで、ヘビの種類、場所、動機、症状については不十分な記録しかなく、完全に把握することはできなかった。医師の話や、症状、標本の調査から判断して、咬症を起こしているヘビは、インドコブラとインドアマガサヘヒが主であると考えられ、タイコブラも数は多くないがこれに加わる。山地森林のあるところではアオハブ咬症があるが、重症例はなかった。インドに多いクサリヘビ咬症は確認されなかった。特にルンビニとマヘンドラナガルでは、インドとの国境付近でラッセルクサリヘビの標本記録があるため、クサリヘビ咬症の有無については特に注意して調査したが、確認はされていない。治療血清はインドから輸入されている混合血清が大量に使われており、1人の患者に対して10本以上、多い場合には30本を越え、政府から支給される数がわずかなため、患者の負担が非常に大きくなっている。インドの混合血清は、コブラ、アマガサヘビ、ラッセルクサリヘビ、エキスクサリヘビの4種に対するもので、1種あたりの力価は低く、治療にあたって大量に使われる原因となっている。また、クサリヘビ類の咬症の認められないネパールでは、その半分は無駄になっていることになる。病院に行かない患者も少なくなく、町から離れると薬草や祈祷を使う治療師がいて、1人が年に10人から30人の患者を診ている。 ネパールにおけるヘビ咬症の特徴の1つが、無毒蛇に咬まれて病院に行く人が多いことである。調査を始めてまもなくこれに気付いたが、このため病院では訪れたヘビ咬症患者をまず観察下に置き、毒による症状が現れはじめてから本格的な治療を行う。病院によって無毒蛇咬症が毒蛇咬症を上回る。無毒蛇咬症の実数を把握するのは非常に難しいが、1カ所、バラトブルの病院で、一般的な調査とは別に、特に念入りな調査を行った。そこでは最近1年間の救急患者の記録からヘビ咬症を全て拾い出すと共に、最近11年間の毒蛇咬症の記録を調査した。ここはテライ地区からカトマンズへの交通の要衡にあり、患者の集まりやすい所である。最近1年間では403例のヘビ咬症が記録されたが、これは他の年の毒蛇咬症の平均52の8倍近くになる。この差は無毒蛇咬症によると考えられ、その場合無毒蛇咬症は毒蛇咬症の7倍近くに達する。また1年間の死亡数の平均は12で、無毒蛇を除いた毒蛇咬症に対する死亡率は23%となる。これは一般的な調査の結果に比べかなり高く、病院によっては無毒蛇咬症が毒蛇咬症の記録に混入している可能性を示唆している。無毒蛇咬症を引き起こすヘビは、昼行性で数も多く、わりと攻撃的なナンジャとウカダが主であると考えられた。ネパールの住民はヘビを食物などとして利用することがなく、またテライ地区は比較的近年に農地として開かれた地域で、古くからの住民が少ない、などの理由で住民にヘビの知識が乏しいと言える。民間の治療師が成り立つのも、無毒蛇咬症が寄与している。 咬症の疫学調査と並行して、ヘビ類の調査も行った。コブラにはインドコブラとタイコブラが認められたが、インドコブラはほとんど黒化型である。毒性には大きな差はない。チトワン国立公園ではコブラ科のベニヘビ属の新種を、ダンガリではナミヘビ科の無毒蛇の新種を見つけた。東部の山地ではアマガサヘビの1種が新たに記録され、チトワン国立公園では、ナミヘビ科のオオカミヘビの1種が新たに記録された。また、ネパールに分布するインドニシキヘビは、東と西で2亜種に分かれることが判明した。ネパールにおけるヘビ類の調査はまだまだ不十分であると言える。
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