研究課題/領域番号 |
07041162
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 学術調査 |
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
天児 和暢 九州大学, 医学部, 教授 (20078752)
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研究分担者 |
ISLAM Siraju ICDDR, B. Environmental Microbiology, Associate
守屋 哲博 九州大学, 医学部, 助手 (10140790)
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研究期間 (年度) |
1995
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研究課題ステータス |
完了 (1995年度)
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配分額 *注記 |
1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
1995年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
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キーワード | Vibrio cholerae / Nonculturable / Reactivation / Heat-shock / Ammonium ion |
研究概要 |
コレラ菌(Vibrio cholerae)はコレラ流行地域の川や池の表層に生息し、コレラ菌に汚染された食品や水を通してヒトに感染する。コレラ菌は生きてはいるが培養できない(培養不能型)状態になることが知られており、このことが疑わしい食品や水から菌の検出を困難なものにしている。しかし、現在までのところ培養不能型状態にあるコレラ菌を通常の培養法で培地に培養して検出できるような方法は確立されていなかった。培養不能型状態にあるコレラ菌を再活性化して簡単に培養できるような方法を確立することは細菌学の範疇に留まらない重要な課題だと考え、この研究で、コレラ菌TSI-4株を用いて培養不能型の菌を作成し、その菌を再活性化して寒天培地に集落を形成させるような方法の検索を行なった。また、その方法が自然環境水中に潜む培養不能型コレラ菌にも応用できるかを試みた。 M9saltやPBSにサスペンドしたコレラ菌TSI-4株は、時間の経過と共に形態が球菌状に変化し、L培地上に形成する集落数も次第に減少した。20日から30日後には顕微鏡的には菌数の実質的な減少は見られないにもかかわらずプレート上には全く集落の形成はなくなった。この集落形成能を失った直後の菌は液体培地ではまだ増殖能を保持していたが、数日後にはそれも完全に失ってしまった。一方、同時に測定した菌体内のATP濃度も培養可能な菌数の減少に伴って減っていくが、集落形成能を消失した後も一定のATP濃度が保たれていた。対照実験として行った、熱処理や紫外線処理して殺菌したコレラ菌では、ATP活性は短日のうちに急速に消失した。これらの形態学的生化学的結果から、この状態のコレラ菌は生きてはいるが培養できない(培養不能型)状態に入っていると考えられた。 再活性化の条件を検索していく過程で、M9saltにサスペンドして得られた培養不能型コレラ菌TSI-4株は45°C、1分間の熱処理によって再活性化され、L培地に集落を形成することが明かになった。一方、PBSを用いた場合では熱処理による再活性化は起こらなかった。この差をM9saltとPBSの組成の違いに着目して検討を加えた結果、M9saltにのみ含まれるNH_4Clに再活性化能があることが判明し、PBSにサスペンドして得られた培養不能型菌もNH_4Cl(18.7mM)を加えて熱処理すると再活性化された。(NH_4)_2SO_4等のアンモニウム塩にも活性能があることが分かり、培養不能型コレラ菌の再活性化には少なくとも熱処理とアンモニウムイオンが必須であることが結論付けられた。 コレラ流行地で感染源と推定される疑わしい食品や水からコレラ菌がしばしば検出されないのは、食品や水の中のコレラ菌が培養不能型の状態で存在しているのではないかと思われる。実験室株で行なった、アンモニウムイオン存在下で熱処理による再活性化法が自然環境の河川水にも適用できるかどうか、今回バングラデシュのダッカ市近郊で採取した水サンプルについて調べた。 選択培地を用いた通常の培養法ではサンプルにはコレラ菌は検出できず、コレラ毒素遺伝子の内部配列をプライマーとしたPCRでもコレラ菌の存在を示す結果はどのサンプルからも得られなかった。しかし、NH_4Clを加えて熱処理を施し、デオキシコール酸アルカリペプトン水で菌を増殖させたサンプルの中に、目的の301bpPCR産物が合成されるものがあった。増殖した菌をLプレートにまき、生育してきたコレラ菌様集落を単離して解析した結果、再活性化されたコレラ菌はV.cholerae O1,Inabaと同定された。 この再活性化の方法は、実験室で作成した培養不能型コレラ菌だけに留まらず自然環境に存在する培養不能型コレラ菌に対しても適用できることが明かになった。しかしながら、すべてのサンプルからコレラ菌が検出できたわけではなく、より確実に培養不能型コレラ菌を再活性化するためには熱処理とアンモニウムイオンの他にも種々の要素を検討していく必要がある。再活性化の方法をさらに洗練されたものにできれば、培養不能型コレラ菌に汚染された食品や水からより簡単にコレラ菌を検出できるようになり、そのような方法は疫学的にも公衆衛生学的にも強力な技法になるものと思われる。
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