研究概要 |
1.ヒトのフィラリア感染率、感染密度等に関する調査 (1)調査地域 スリランカ南部のMatara地区にあるPolhena、Madihe、Walgamaにおいて予備調査を行った結果、感染率の高いWalgamaを調査地域に決めた。ここは6つの村より成り、約1,000戸の住宅に6,000人が住んでいる。 (2)ミクロフィラリア(mf)の種類と末梢血中への出現の周期性 適切な採血時間を設定するために10名の患者より2時間おきに検血しmf数の日内変動を調べた。その結果、調査地域は、夜間周期性バンクロフト糸状虫の流行地であり、mf出現のピークは午前1時と推定された。なお、この地域にはマレー糸状虫症も存在している可能性が有り、遺伝子診断の応用により区別することを検討中である。 (3)ヒトにおけるmf陽性率とmf密度 これまでに、約5,000人の検血を指尖血を用いて行った。また必要に応じてnuclepore膜濾過法を実施した。陽性率はMatotagama(7.03%),Hamugewatta(7.74%),Walgama North(3.27%),Walgama(5.14%),Walgama Central(4.53%),Walgama South(4.77%),全体の平均は5.02%であった(男6.5%,女3.7%)。Mf密度は全体で約30/60μlであった。 (4)フィラリア循環抗原の検出 約500の血清サンプルを用い循環抗原の検出を試みたところ、高率に(mf陽性率の約2倍)抗原陽性かつmf陰性の者が発見された。これらの人々が今後mf陽性となるのか、最後まで陰性のままであるのか、さらには臨床症状の発現と関わっているのかなど、重要な問題を含んでおり、数年にわたる追跡調査が是非必要である。 (5)臨床的研究 調査地域では象皮病が非常に目につく。これまでのデータでは象皮病の有病率は3.2%で、年齢55才以上では6-10%に達する。患者を対象とする免疫学的研究のため、血清を収集中である。 (6)Mf陽性者の治療実験 現在まで、117名のmf陽性者がジエチルカルバマジン(DEC)で治療された。今後は50-100人のmf陽性者を1グループとしてDEC(或はアイベルメクチン)の年1回治療法と、DECとアイベルメクチンの併用療法の効果を比較検討する予定である。 2.媒介蚊の密度、フィラリア感染率等に関する調査 (1)媒介蚊の種類に関する調査 6村の採集地点で計18種類の蚊が同定された。このうち圧倒的に多いのがCulex quinquefasciatus(バンクロフト糸状虫媒介蚊)であった。 (2)Culex quinquefasciatusの吸血時間に関する研究 蚊の活動周期はmfの末梢血液中への出現周期とよく一致しており、午前1時にピークが認められた。 (3)Culex quinquefasciatusの野外および室内での密度とその季節変動 過去、10か月にわたる調査では、多数のフィラリア媒介蚊が年間を通じて採集された。蚊のフィラリア感染率は屋外採集の蚊で0.2-3.3%、屋内採集の蚊で1.0-4.2%であった。 (4)薬剤処理カ-テンの防虫効果に関する研究 Permethrin,lambdacyhalothrin,bendiocarbの3種の薬剤でカ-テンを処理し、媒介蚊の吸血に及ぼす影響を調べた結果、薬剤処理後22週まで効果が認められ、前二者がbendiocarbよりも有効であった。
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