研究課題/領域番号 |
07042004
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | がん調査 |
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
大野 良之 名古屋大学, 医学部, 教授 (10160590)
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研究分担者 |
DILLON Drupa インドネシア大学, 医学部・栄養学, 栄養士
BUDININGSIH ステワッティ インドネシア大学, 医学部・地域医療学, 講師
RAMLI Muchli インドネシア大学, 医学部・中央病院・腫瘍外科, 医師
TJAHJADI Gun インドネシア大学, 医学部・解剖病理・乳腺病理, 主任
CORNAIN Sant インドネシア大学, 医学部・免疫研, 主任
若井 建志 名古屋大学, 医学部, 助手 (50270989)
坂本 吾偉 癌研究会癌研究所, 病理部・病理部, 部長 (80085620)
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研究期間 (年度) |
1995
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研究課題ステータス |
完了 (1995年度)
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配分額 *注記 |
3,300千円 (直接経費: 3,300千円)
1995年度: 3,300千円 (直接経費: 3,300千円)
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キーワード | インドネシア / 乳がん / 症例対照研究 / リスク要因 / 栄養 / 食餌 / 脂肪 |
研究概要 |
本研究の主な目的はインドネシアにおける女性乳がんの発生要因を、分析疫学研究の一手法である症例対照研究を用いて解明することにある。 平成元年度から3年度にかけて、われわれは症例300例と対照600例の直接問診による症例対照研究を実施した。その結果は平成5年度に報告したが、牛乳・脂肪の多い肉類・ココナツミルクを用いた料理など、脂肪に富む食品の頻回摂取が乳がんリスクと関連している傾向があることに注目された。そこで、栄養素レベルでさらに詳細に乳がん発生と食餌要因との関連を検討するため、平成4年度より栄養問診を中心とした症例対照研究を新たに開始し、今年度も引き続きデータの収集を実施した。 この研究の症例は、インドネシア大学医学部中央病院の腫瘍外科にて新たに診断され、病理組織学的に確定診断された女性乳がん例である。対照は、症例と同姓(女性)・同年齢(±3歳)・同入院/来院時期(±3カ月)で、社会階層も対応させた同病院の入院/外来患者である(悪性腫瘍患者は除外)対照は症例1例に対して2例を設定した。収集する疫学情報は、社会・人口学的要因、体格要因、月経、生殖関連要因、授乳歴、傾向避妊薬使用歴、喫煙・飲酒要因、がん家族歴、胸部外傷歴、放射線被爆歴など、以前の症例対照研究でも検討した項目の他、約70種類の食材料の週あたり摂取頻度および摂取量を含む情報収集は栄養士が対象者を直接面接することにより実施し、各食材料の摂取頻度と摂取量から各対象者の一日あたりの各栄養摂取量を算出した。栄養問診は結婚前および結婚後の食餌習慣について実施したが、今回の検討では結婚前のデータを用いた。栄養素摂取量推定の妥当性を高めるため、以下の検討では主として推定摂取カロリーあたりの栄養素摂取量を用いた。分析にあたっては、各栄養素ごとに対照の分布で対象者を4群に分類し、摂取カロリーあたりの栄養素摂取量が最低の群に対する他の3群のオッズ比を求めた。オッズ費の算出にはconditional logistic modelを用いたが、閉経前後別の分析ではunconditional logisticを用い、年齢調整を実施した。 平成8年1月までに、症例226例、対照452例について問診が終了した。全体(閉経前および閉経後)については、蛋白質・脂肪・カルシウム・リン・レチノール・アスコルビン酸のカロリーあたり摂取量が多いほど、乳がんリスクが高くなる傾向が認められる。とくに乳がんリスクと脂肪摂取量との間には強い正の関連がみられ、第一四分位に対する第2、3、4四分位のオッズ比(95%信頼区間)は2.66(1.40-5.04)、4.28(2.34-7.82)、5.52(3.02-10.1)である(trend p=2*10^<-9>)。一方、カロリーあたりの炭水化物摂取量は乳がんリスクと強い負の関連を示し、第1四分位に対する第2、3、4四分位のオッズ比(95%信頼区間)は0.73(0.48-1.12)、0.45(0.28-0.71)、0.20(0.11-0.36)である(trend p=3*10^<-9>)。なお脂肪摂取と乳がんリスクとの間の強い正の関連は、カロリーあたりの値とともに、推定摂取量の絶対値を用いた場合にも認められた。しかし炭水化物摂取量の増加に伴うオッズ比の低下は、推定摂取量の絶対値を用いた場合には認なかった。 多くの栄養素で閉経前後ともに同様の傾向が認められる。ただし、閉経前女性では蛋白質とリンのカロリーあたり摂取量が多いほどオッズ比が上昇するのに対し、閉経後女性では明らかな傾向が認められない。アスコルビン酸については、とりわけ閉経後女性で乳がんリスクとの間に強い正の関連がみられる。 このように、ほとんどの栄養素について乳がんリスクとの間に何らかの関連が認められたが、各栄養素の摂取はお互いに密接に関連しているため、どの栄養素がより強く乳がん発生に関与しているかを特定することは困難である。しかし乳がんリスクと脂肪摂取との間の正の関連は、オッズ比が他の栄養素よりも大きく、量反応関係がとりわけ明確で、かつカロリーあたりの摂取量・摂取量の絶対値どちらを用いて検討した場合にも関連が認められたことから、脂肪の過剰摂取がとくに乳がん発生を促進していることが示唆される。この所見はインドネシアにおける前回の症例対照研究で見いだされた、脂肪に富む食品の頻回摂取が乳がんリスクと関連している傾向とよく一致しており、食品摂取頻度調査から示唆された脂肪摂取と乳がんとの関連が摂取量レベルでも証明されたものと考えられる。
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