研究分担者 |
ピスクノフ ワイ ロシア科学アカデミー, ウラル研究所, 研究員
ヤクボフスキー エイ ロシア, クルチャトフ研究所, 主任研究員
ロス ジョゼフ スイス, チューリッヒ大学, 講師
マリ ミハエル スイス, チューリッヒ大学, 講師
ブリンクマン ディー スイス, チューリッヒ大学, 教授
松田 祐司 北海道大学, 大学院・理学研究科, 助教授 (50199816)
MALI Mija Zurich University, Switzerland, Lecture
ROOS Joseph Zurich University, Switzerland, Lecture
BRINKMANN Detlef Zurich University, Switzerland, Prof.
PISKUNOV Yuri Russian Academy of Sciences, Russia, Researcher
YAKUBOVSKII Andrey Kurchatov Institute, Russia, Chief Researcher
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研究概要 |
本研究は、電荷移動型酸化物高温超伝導体とモット型絶縁体の2つの異なるタイプの強相関系で各原子サイトの電子状態の知見を得て、特異な電子状態のもとでのスピンの揺らぎの効果と金属-絶縁体転移(MI転移)近傍に現れる高温超伝導の発現機構との関連を明らかにすることを目的とした。このため、微視的測定手段である核磁気共鳴の研究を、高磁場下でのパルスNMR測定装置を有するスイス・チューリッヒ大学ブリンクマン教授グループ、およびNMR可能な濃縮核を用いた試料の作製とNMR測定をロシア・クルチャトフ研究所ヤクボフスキー博士グループとの共同研究として行った。 最近新たに発見された超伝導体YNi_2B_2C、LaPt_2B_2Cを北海道大学において製作した。更に、イオン半径の差異による局所スピン密度とスピンの揺らぎに関する系統的知見を得る目的で、系統的な希土類元素置換の試料作製を製作した。これらの試料について高磁場下でのNMR測定に関する共同研究をスイス・チューリッヒ大学において7月下旬より8月下旬にかけての1カ月にわたりおこなった。^<11>B、^<195>Pt、^<139>Laの核緩和時間(T_1)とナイトシフト(K)を測定することにより、低エネルギースピン励起の特徴を明らかにした。主な結果は、1)^<11>BのナイトシフトとT_1は3d遷移元素及び希土類元素の置換により大きな影響を受けること、2)低温に向かいナイトシフト、1/T_1Tが大きく増大すること、3)PtサイトのNMRよりd電子サイトのスピン密度の情報が得られたこと、である。これらの測定結果は、新たに発見された超伝導層状物質四元ボライド化合物において3d(5d)スピンの揺らぎの効果あるいは軽元素の特異な振動モードの重要性を示している。 一方、電子状態のドープ濃度依存性に関する研究を進めるため、濃縮核を用いた銅酸化物超伝導体、およびBaPb_<1-X>Bi_XO_3、における濃縮核^<137>Baアイソトープに置換した試料、金属-絶縁体転移物質としてのスピネル化合物CuIr_2S_4において、S(硫黄)サイトをNMR可能な^<33>Sアイソトープに置換した試料、及び、量子スピン梯子格子系(VO)_2P_2O_7、をヤクボフスキー博士と協力して作製し、これらの試料におけるNMR測定は北海道大学においておこなった。特に磁場掃引によるスペクトル測定と、低温での緩和時緩和についてはヤクボフスキー博士との協力で北海道大学で行った。 量子スピン梯子格子系(VO)_2P_2O_7と1次元スピン対物質VO(HPO_4)0.5H_2Oにおいては、^<31>P核のナイトシフト、緩和時間T_1を広範囲な温度領域で測定し、スピンギャップの形成が微視的に示した。また量子スピン梯子格子系でのスピン励起には反強磁性揺らぎの波数依存性が顕に見られることや、緩和時間の磁場依存性が大きいことを明らかにし、低次元スピン系のスピン励起の特徴を議論し論文にまとめた。 銅スピネル化合物においては、Cu、Rh,S,Seの各核種のNMRを測定した。CuIr_2S_4におけるCuサイトでのナイトシフト、1/T_1の大きな減少は、MI転移でエネルギーギャップの形成によるスピン密度の減少を示している。さらに、MI転移において磁気秩序状態は現れないことがNMR測定結果より明らになった。超伝導物質CuRh_2S_4での緩和時間、ナイトシフトから、Cu、Rhサイトでの電子状態密度の大きさを評価し、Rhサイトではバンド計算の結果を支持するが、Cuサイトでは理論の予測より大きな状態密度の寄与があることを示した。 BPBO系においては超伝導相でBa-NMR信号幅が低温で急速に増大し電気四重局相互作用の非対称パラメータηが0から1に変化することが示された。このことは、BaOが局所的に変形し、これによる電子系の変化と超伝導性の相関が明らかになった。スピン梯子格子系でのスピンギャップの形成がナイトシフト、緩和時間の特徴的な温度変化から示され、梯子系のおける量子スピンの揺らぎの特徴を議論した。
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