研究課題/領域番号 |
07044067
|
研究種目 |
国際学術研究
|
配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 共同研究 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山崎 泰規 東京大学, 教養学部, 教授 (30114903)
|
研究分担者 |
HOLZSCHEITER エムエイチ ロスアラモス国立研究所, 主任研究員
東 俊行 東京大学, 教養学部, 助手 (70212529)
小牧 研一郎 東京大学, 教養学部, 教授 (40012447)
|
研究期間 (年度) |
1995
|
研究課題ステータス |
完了 (1995年度)
|
配分額 *注記 |
1,800千円 (直接経費: 1,800千円)
1995年度: 1,800千円 (直接経費: 1,800千円)
|
キーワード | 反陽子 / エキゾチック原子 / 捕捉過程 / ペニングトラップ |
研究概要 |
本来、2年度にまたがる研究計画が、その初年度のみ認められたため、計画全体がいびつなものになり、結果として「課題」で目的とする所までには致らなかったが、とりあえず、本年度分についてまとめる。 本年度当初に、先方の研究責任者であるロスアラモス国立研究所のM.H.Holzscheiterに来日をうながし、本年度、来年度にわたる長期的な研究計画について検討した。特に来年度いっぱいに設定されている低速反陽子リング(LEAR)の運転スケジュールと我々の研究日程をいかにマッチさせていくかについで詳細な検討を行った。これにより、実際的にも、技術的にも本年度はもっぱら低速反陽子ビームのペニングトラップからの引き出しに大部分の労力をはらわねばならないことが、予想されていたとはいえ、明らかになった。 7月には、ジュネ-ブのCERUにあるLEAR施設へ出向き、実際のビーム引き出し実験に参加し、特に、入射高速反陽子の捕捉効率の向上、冷却過程の解明と効率化、等について実験的に研究した。これにより、当初数10beVで捕捉された反陽子は、数分程度にわたるマクロスコピックな時間をかけて冷却され、その後トラップ中に超低速反陽子として100万個程度捕捉されること、このような冷却には、外部から導入した熱電子が多大の寄与をすること、残留ガスとの相互作用による反陽子の消滅は従来考えられていたように、反陽子の速さに反比例して速度の減少とともに増加するといったものではなく、ある一定値に近づく、あるいは、さらに減少するものであることが見い出された。また、熱電子の導入によるきわめて高効率の冷却は、主に、ぺニングトラップの強磁場によりシンクロトロン放射をおこして冷却される電子と反陽子の相互作用による″電子冷却″に寄因するものであることが確認された。 11月には再度渡欧し、LEAR施設での実験に合流した。この時、本国際学術研究の研究経費にも限りがあるので、私費でマスターコースの学生を実験に参加させた。現地での実験参加など大学院学生への教育効果には見るべきものが多くあったと考えている。さて、この11月の実験においては、本研究と同じ研究課題名の一般研究(A)で整備が可能になったプラスチックシンチレータによるトラックディテクターをLEARへ運び、消滅反陽子の放出するπ粒子を検出することにより、反陽子が実際にトラップ中のどの位置で消滅したかを知ることができるようになった。これによると電子冷却の各段階において反陽子の″雲″が運動している様子をつぶさに観測することができる。これと同時に、Holzscheiterらの用意したクオルツとCCDカメラからなるビームプロファイルモニターで引き出された反陽子のビーム形状も明確にとらえることができるようになった。ペニングトラップからの超低速荷電粒子の取り出しは、強磁間から弱磁場へ向けてビームを発散させずに輸送するといういくつかの原理的困難を伴うものであるが、我々の今回の試みでは、トラップ出口において数mmという非常に良質のものであることが実験的に確認された。このようにビームが外部に輸送されたことをうけて、我々はやはり上述の一般研究(A)の援助によって整備されたビームトランスポートラインと実験用真空槽を本研究経費でCERNに送付した。この実査系は、真空槽内のガスセルに10^<-2>Torr程度のガスを充満させなおかつ物理的な窓を設けることなしにトランスポートラインの他端ではペニングトラップとの結合を可能にするため、5×10^<-11>Torrまで排気できる高性能なものである。これにより、超低速反陽子ビームと原子の衝突が一回散乱条件下ではじめて可能となった。本年4月から9月かけてはほぼ連日のマシンタイムが認められており、上記の実験装置により、興味深い結果が多々得られるものと期待している。このような研究計画は、しかしながら、来年度は全く私費で遂行される。来年度の国際学術研究が認められなかったためである。一般研究(A)という大きな予算を費して作成した機器を用いる研究が、その本来の段階において、私費でなされなければならないという状況は、現在の我国の科学技術政策の計画性のなさを、他にも多くの例があるとはいえ、端無くも露呈している。
|