研究概要 |
西太平洋に位置するソロモン海域ではオントンジャワ海台が北ソロモン海溝に衝突しており対応する島弧の逆(南)側ではサンクリストバル海溝から複雑な地形を持ったインドオーストラリアプレートが沈み込んでいる。このような過程は現在の地球では特異に見えるが地球史の中では繰り返されてきたことが地質学的にわかっている。海台の沈み込みならびに海溝のジャンプ・逆転の起きているソロモン島弧海溝系において,地殻深部・最上部マントルの地震・地質構造を精密に調査することは,このように複雑な過程の普遍性を明らかにし,とくに沈み込みにくい海台は海溝でどのような振る舞いをするのか理解するために重要である。本研究は,日本のデジタル海底地震計技術と米国の反射法探査技術を有機的に結びつけてその目的達成をはかったものである。平成7年度に日米共同実験として地震学的反射法・屈折法による地殻構造調査を主に,重力・地磁気観測も行い,当該海域ではじめてコンプリ-トな地殻構造実験が実施できた。 7年度の7月には共同実験者とテキサス大学地球物理研究所において綿密な実験打ち合わせを行い,本実験は米国地球物理研究船モ-リス・ユ-イング号にて,10月17日-11月19日に実施した。この間,ソロモン諸島全域の約130チャネルの多重反射法音波探査データ(4050km)を取得し,かつグアダルカナル島西方においてオントンジャワ海台からインドオーストラリアプレート側まで464kmの長大測線に18台の海底地震計を配置した屈折・反射複合探査も行った。人工地震の震源はエアガンアレーで約140リットル,150気圧のエネルギーを約50m間隔でシューティングした。この結果,海底地震観測において地殻深部の情報がかつてない空間的密度で得られる。これまでの反射法の記録の解釈では,オントンジャワ海台は基本的には現在でも沈み込みを続けているという意外な結果である。これまで沈み込みせずに陸側に衝突しせりあがっているという解釈があったが,それは局所的現象のようである。ソロモン島弧のうちマレイタ島,サンタイサベル島の一部はオントンジャワ海台と地質・岩石的に区別が付かないので,せりあがりが起きていることは確かであるが,プレートの大部分は沈み込んでいる。陸側プレートがくさび状に海台を乗せたプレートを割っているか,それともたとえば南海トラフのように付加体を形成しながら沈み込んでいるかのふたつのモデルが考えられていたが後者の可能性が高い。より深部の構造を明らかにして決着をつけるべきであるが,今回得たデータは,まさにそれを可能にする。 海底地震計はデジタル型であるのでダイナミックレンジが広くかつ時刻精度も高く,アナログ型では不可能な高品質データを得た。エアガンの信号を見ると,記録は300km以上届いているので,島弧系の全貌が明らかにされるはずである。これまでソロモン島弧はその地殻の厚さも不明であり,上部地殻の一部がしかも一次元的に明らかにされているだけであり,今回2次元的にトランセクトが得られる意義は大きい。これまで海洋性島弧でそのような構造が求められているのは北部伊豆・小笠原島弧だけであり,そこでは海洋性島弧に大陸性カコウ岩質岩石の生成現場としての位置づけがされている。同様な構造がここでも見られれば,海洋性島弧の存在は地球進化においてすなわち大陸地殻の成長に重要な役割を持つことになる。一方,大陸性地殻形成のもうひとつの重要な候補が海台である。海洋リソスフェア中にホットスポットあるいはマントルプルーム活動によって短期的に形成されるとする海台が,沈み込まず大陸に付加すると言う説である。今回の実験はこの両方を同時に検証することになる。 プレートの沈み込み角度についてもこの実験により,グローバルな普遍性を検証するものとして位置づけられる。北側と南側とではその沈み込みパラメータは,年代,地殻,移動速度などどれをとってもかなり異なる。にもかかわらず,沈み込み始めは両側とも類似したごく浅い角度であると推定される。その原因はまだ検討中だが,いまのところほかの沈み込み帯の結果も同様であり,地質学的過去よりも単純なダイナミクスで説明できるる可能性が高い。
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