研究分担者 |
LIONS P.L. パリ大学ドフィーヌ校, CEREMADE, 教授
SONER M.H. カーネギーメロン大学, 数学科, 教授
SOUGANIDIS P ウィスコンシン大学マディソン校, 数学科, 教授
CRANDALL M.G カルフォルニア大学サンタバーバラ校, 数学科, 教授
EVANS L.C. カルフォルニア大学バークレー校, 数学科, 教授
小池 茂昭 埼玉大学, 理学部, 助教授 (90205295)
儀我 美一 北海道大学, 理学部, 教授 (70144110)
GIGA Y. Hokkaido University, Faculty of Science
KOIKE S. Saitama University, Faculty of Science
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研究概要 |
1階非線形偏微分方程式,2階非線形楕円型及び放物型偏微分方程式の粘性解について,存在,一意性,基本性質およびその応用について研究した.特に,曲面の時間発展に関するレベルセット・アプローチ,決定系の制御等において応用と基礎理論の両面でいくつかの成果を得た.以下研究成果を箇条書きにして説明する. 1.コンピュータ・チップの製造工程における一つの基本工程として,エッチングが挙げられる.この工学的問題に対して,数学的モデルを定式化し,解析することは重要である.8月のアメリカ合衆国滞在中にこの問題に対するレベルセット・アプローチを研究し,成果を得た.この研究は石井とEvansの共同研究として行われた.10月にフランス国滞在中にこの問題についてLions,Barles等と討論し,この問題が密接に画像処理の数学的取扱いと関連していることが分かった.この点は今後の課題とされる. 2.Allen-Cahn方程式のような半線形放物型方程式について,非線形項がsin関数のような周期関数である場合に適当なスケーリングにより解が,すべての等高面が平均曲率流であるような関数に収束することを示した.関連した結果が最近Jerrardにより得られている.この問題については,8月にアメリカ合衆国滞在中にCarnegie Mellon大学,Wisconsin大学Madison校の数学教室において,講演する(石井)機会をもち,Soner,Souganidis等と研究討論した.さらに,10月にフランス国滞在中にもパリ大学,IXにおいて講演(石井)の機会を得,Lions等とこの問題について討論した.この研究は石井が行った. 3.Bence,Merriman,OsherのアルゴリズムやGriffeath等による閾値ダイナミクッス法を研究し,その一般化による曲面の非等方的平均曲率流の近似スキームの構成とその収束,また曲面の時間発展の速度が曲面の方向の関数であり曲率には依存しない場合に付いても近似スキームの構成と収束を示した.更に,このような曲面の時間発展に対して,対応するWulffクリスタルに漸近的に相似であることを証明した.この研究は石井とSouganidisの共同研究として行われた. 4.Hamilton-Jacobi方程式に対するエルゴード問題あるいは対応する最適制御問題に対するエルゴード問題について,エルゴード・アトラクターの特徴付けを研究し,いくつかの新しい特徴付けに関する結果を得た.有沢と石井の共同研究として行われた. 5.上記エルゴード問題を無限次元空間で研究し,Hamilton-Jacobi方程式に対するエルゴード問題の設定をこれまでの有限次元空間の場合と異なる定式化が必要であることを示した.この研究は有沢,石井,Lionsの共同研究として行われた. 6.微分可能でないような表面エネルギーにより,曲線の時間発展が規定される場合について曲線の時間発展を数学的に定式化し,この数学的問題に対する解の存在と解の比較定理を証明した.この研究ではいかに数学的に定式化をするかが重要であり,従って問題は極めて基本的である.曲面の場合に拡張する問題は今後の課題である.8月のアメリカ合衆国滞在中にCarnegie Mellon大学とWisconsin大学において講演する(儀我)機会を持ち,Soner,Souganidis等と研究討論し,結果を深めることができた.この研究は儀我が行った. 7.微分ゲームが状態制約を持つ場合に,粘性解によるアプローチが有効であることを示した.境界におけるハミロトニヤンをいかに取るかが問題であったが,これを解決し,微分ゲームの値関数が対応するHamilton-Jacobi方程式の解であること,その解が一意であること等を示した.この研究は小池がBardi,Soraviaと共同で研究した. 本研究の遂行にあたり,研究分担者L.C.Evansの都合により予定を変更し,L.C.Evansの招聘は中止とし代わって研究代表者石井をアメリカ合衆国に派遣することとした.この変更による研究遂行上の問題は特になく,上記のような成果を得ることができた. 以上の成果1〜7はすべて粘性解の概念を本質的に使って得られた.今後も粘性解を利用した偏微分方程式の研究が重要であり,特に工学方面への応用が期待される.国際的広がりを持った,視野の広い活発な研究が期待される.
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