研究課題/領域番号 |
07044127
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 共同研究 |
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
小林 正美 筑波大学, 物質工学系, 講師 (70234846)
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研究分担者 |
TANIELIAN Ch EHICS, 教授
CHARLES Tanielian EHICS
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研究期間 (年度) |
1995
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研究課題ステータス |
完了 (1995年度)
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配分額 *注記 |
1,300千円 (直接経費: 1,300千円)
1995年度: 1,300千円 (直接経費: 1,300千円)
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キーワード | Chlorophyll / Pheophorbide / Singlet oxygen / Photosensitizer / PDT |
研究概要 |
1980年半ばから、ポルフィリンとレーザーを併用したガンの光治療に関する研究が盛んとなり、欧米では既に臨床に応用されている。しかし、その作用機構についてはよく分かっていない。その一因は、増感剤として使用されているヘマトポリフィリン誘導体が、多くの成分からなる混合物だからである。最近、植物の光合成で機能しているクロロフィルム(葉緑素)誘導体が、ヘマトポルフィリン誘導体よりもガン細胞を殺す能力が高いことが示された。従来、ヘマトポルフィリン誘導体は、細胞膜または細胞質に集積し、光照射によって一重項酸素を発生することでガン細胞にダメ-ジを与えていると見なされてきたが、クロロフィルム誘導体の殺細胞効果がヘマトポルフィリン誘導体よりも遙かに高いことから、その標的はより致命的な場所、例えば核やミトコンドリア、だと我々は考えた。 1.水に可溶なクロロフィルム誘導体 高等植物にはクロロフィル(Chl)aとbの2種類のChlが存在する。Chlには長い疎水性の側鎖(フィチル基,-C_<20>H_<39>)が存在するため水に不溶である。そのため、強酸処理によって側鎖を脱離したフェオフォーバイド(Phde)aが光治療に使用されてきた。しかし、Phde aの水に対する溶解度は極めて低いため、実際には有機溶媒または界面活性剤で予備溶解する必要があった。しかし、微量の有機溶媒や界面活性剤が存在すると、一重項酸素の生成に大きく影響し、増感色素そのもの物性を評価できない。そこで、我々はPhdeのNa塩を調製することで水に直接溶解させることに成功した。これによって、有機溶媒や界面活性剤の影響を考慮する必要が無くなった。 2.フェオフォーバイドの分光特性 Na-Phde a&bの水溶液中での吸収スペクトルは、ポルフィリンと異なり、600〜700nmに大きなQ_Y吸収帯を有するので、細胞透過性の高い赤色光が利用できる。Na-Phde aの場合、Qバンドが二つに分裂しているように見えるが、短波長側のピークが単量体、長波長側のピークが会合体によるものである。ところで、Na-Phdeの水溶液にプラスミドDNA(pBR322)を添加すると、吸収およびCDスペクトルが変化した。このことは、Na-PhdeDNAと強く相互作用していることを示している。 3.フェオフォーバイドによるDNA光切断 可視光照射によるpBR 322の光切断
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を試みたところ、溶存酸素存在下において、Na-Phde bは驚異的な光切断能を示した。溶存酸素を除去すると、Na-Phde bの光切断効率は低下した。DNAの光切断効率は、酸素の有無に関わらずNa-Phde bの方が高い。よって、フェオフォーバイドによるガン治療の主因の一つがDNAの損傷であるならば、Na-Phde bを用いた方が効果が高いと言える。 4.DNA光切断の作用機構 従来、励起一重項状態は寿命が短いため化学反応には適さず、系間交差によって生成する寿命の長い三重項からのDNAへの攻撃が重要だと見なされてきた。また、基底状態の酸素分子は三重項であるため、三重項状態の色素なら「三重項→三重項エネルギー移動」によって、容易に一重項酸素(^1O_2)を発生できる。以上のことから、光治療用色素を設計する際、いかにして励起三重項生成量子収率を高めるかが肝要だと信じられてきた。 ところで、Na-Phde bは酸素が存在するとDNA光切断効率が飛躍的に向上した。よって、Na-Phde bは^1O_2発生効率が高いはずである。そこで、Na-Phde aおよびbの^1O_2生成量子収率を測定した。有機溶媒中ではNa-Phde a、b共に高い収率で^1O_2を発生したが、水溶液中では、予想に反し、^1O_2は生成しなかった。よって、溶存酸素下でNa-Phde bの光切断効率が高まるのは、^1O_2生成によるものではない。 水溶液中で^1O_2が発生していないことから、Na-PhdeによるDNAの光切断はタイプI型だと言える。ところで、DNA塩基のうちGとAは酸化され易く、それが引き金となってDNA鎖が切断される。GおよびAの酸化電位と、フェオフィチンの基底状態および励起状態での還元電位との比較から、励起一重項でなければ核酸塩基から電子を引き抜くことはできないことを明らかにした。 核酸塩基を結合させたポルフィリンを用いて上記の確証を得た。励起一重項状態のポルフィリンに核酸塩基から電子が移動すれば、ポルフィリンの蛍光は弱くなるはずである。実際、酸化電位の高いC,Tを結合させたポルフィリンでは蛍光はほとんど消光されないが、AおよびGでは強く消光された。消光の程度は核酸塩基の酸化電位の序列と同じで(G:1.09V、A:1.19V、T:1.29V、C:1.48V、vs.NHE)、Gで最も強く消光された。直接的に核酸塩基から励起一重項状態の色素への電子移動が確かめられたのはこれが初めてである。 ところで、DNA塩基から電子を引き抜いた色素はアニオン・ラジカルとなるため、もはや容易には再励起できない。しかし、適当な電子受容体が存在すれば、その分子に電子を受け渡し、基底状態に戻ることができる。Na-Phde bが酸素存在下で驚異的な光切断活性を示すのは、酸素が電子受容体として機能しているためであろう。また、生成するO_2^-やそれから生成するH_2O_2、OH^-もDNA切断に寄与しているのであろう。 隠す
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