研究概要 |
本年度最初に,1キロワット級ホール型推進機を新たに製作し,名古屋大学航空宇宙工学専攻が有する真空チャンバー装置(直径1メートル,長さ2メートル,排気速度毎秒8千リットル)で作動試験を行った。加速チャンネル長さと推進性能の関係を調べるため,チャンネル長さを変化させながら,総イオンビーム電流,および排気ビームの発散角を計測し,最適チャンネル長さを求めた。しかしながら,真空チャンバーが小型であるため,真空度は10のマイナス4乗トールであり,真空度の測定結果への影響が懸念された。 そこで,この推進機をアメリカに持ち込み,ミシガン大学航空宇宙工学科の有する超大型真空チャンバー装置(直径6メートル,長さ9メートル,排気速度毎秒18万リットル)を借りて,同様の検証実験を行うことにした。本装置を用いることによって,10のマイナス5乗トールの真空度で測定が行えるものと期待された。 研究代表者小紫公也は7月にミシガン大学を訪れ,研究分担者のガリモア博士と今後の共同研究に関する打ち合わせを行うとともに,排気ビーム計測に必要な計測装置などを用意し,必要なものは設計図を書いて,製作しておいてもらった。また日本では,推進機スタンドにとり付けられるようなアタッチメントと,電気,ガス,冷却水の供給ラインを用意した。 1月に小紫は,研究協力者三上建治とともに再びミシガン大学を訪れ,我々の推進機の推進性能測定実験を行った。真空チャンバー装置の運転,および全ての測定データ取得は,ガリモア博士とその研究室の学生が行い,測定項目,パラメーターの決定および推進機の作動は,小紫と三上で行った。ファラデーカップをX-Yステージで動かしながら,イオンビームの2次元電流密度分布を測定した他,静電探針を用いたプラズマ電位分布測定,マルチグリッド・ポテンシャル・リタルディング分析器を用いたエネルギー分布測定,スラストスタンドを用いた推力測定を行った。2週間で,予定していた実験をほぼ全て完了した。 日本に帰国後,測定データの解析を行った。その結果,放電電圧電流特性に関しては,名古屋大学の真空チャンバーで得られたものとほぼ等しく,真空度が推進機の放電自体に及ぼす影響は少ないことが確かめられた。また,プラズマ電位の2次元分布からは面白い結果が得られた。推進機出口に位置する陰極を底として,その周りに穏やかなポテンシャルの谷ができており,50センチメートル程離れた場所で,ポテンシャル勾配がゼロになっていた。すなわち,直径1メートル程度の小さな真空チャンバーでの実験では,側面を絶縁シートで覆うなどの工夫をしなければ,壁面での電流の収支の影響が中心部にまで及んでしまう可能性があることがわかった。 推進機出口からの離れるに連れて,総イオンビーム電流量が減少する傾向に関しては,これまで言われていたように,排ガスとの荷電交換衝突の平均自由行程を考慮すれば,十分理論曲線と一致することがわかった。この結果は,小型真空チャンバーで実験する場合にも,総イオン電流量が正確に見積もることができるということを示す良いデータとなった。 しかし,排気イオンビームの発散角は,小型真空チャンバーで実験を行った場合よりも,いくぶん広がっており,これはプラズマポテンシャル分布の違いによるものではないかと予想されるが,この理由付けには今後の更なる研究が必要である。 また推力測定の結果,キセノンガスで比推力800秒,推進効率35%という性能を得たが,ミシガン大学のスラストスタンドで計るには我々の推進機の推力レベルが小さすぎたため,残念ながら意味のあるデータを得ることはできなかった。
|