研究概要 |
複数のロボットが協調しタスクを遂行する複数ロボットシステムの研究において,ロボットの視覚の視野は広い方が有利であると予想される.本研究では,そのような視覚として360度の視野をもつ全方位視覚を考え,それを用いた複数ロボットシステムについて研究した.研究の結果,全方位視覚により,複数ロボット間で互いの位置関係を瞬時に把握できる頑強な複数ロボットシステムの開発可能となった(パノラマ視覚はロボットの回転運動によって得られる360度の視覚情報とロボットの並進運動により得られる画像情報の総称). 研究項目は以下の5点である. (1)ロボットの同定と相対的位置決めを同時に行うアルゴリズムの考案. (2)複数ロボットシステムがタスクを実行するための協調行動の計画方法. (3)小型の全方位視覚センサの開発 (4)全方位視覚センサを用いた実環境における実験 (5)全方位視覚の有効性の検討 (1)ロボットの同定と相対的位置決めを同時に行うアルゴリズムの考案. 複数ロボット間でロボットの同定と相対的位置決めを同時に行うアルゴリズムは,3台のロボットが全方位視覚によって互いに観測しあった場合,各ロボットが観測する他の2台のロボットの投影間隔の角度合計が180度になるという制約に基づいている.この制約を多数のロボット間での観測に適用することにより,ロボットの同定と相対的位置決めを同時に行うことができる.このアルゴリズムにより,全方位センサを搭載する複数のロボットは,障害物が存在する環境においても高速にかつ頑強に互いの位置関係を発見することができ,複数ロボットの協調行動における基本的なアルゴリズムの一つである考えられる. (2)複数ロボットシステムがタスクを実行するための協調行動の計画方法. 複数ロボットシステムがタスクを遂行するためには,タスク遂行に必要な情報を求めて環境内を徘徊しなければならない.ここでは,環境モデルの獲得を例に,各ロボットがタスク遂行のための行動を決定するビヘ-ビアに基づく方法を考案し,シミュレーションによりその有効性を検証した.ビヘ-ビアに基づく方法は,複数ロボットシステム全体の行動を集中制御で計画するのではなく,個々のロボットが局所的な観測と,局所的な通信に基づき自らの行動計画を生成するため,たとえ一部のロボットが壊れてもシステム全体に与える影響が少ないという利点を持つ. (3)小型の全方位視覚センサの開発 次に,上記の方法を実システムに適用するため,まず,小型の全方位視覚センサを試作した.全方位センサは全方位の画像を映し出す回転対称体の鏡と,それを支える器具からなる.鏡を支える器具としては,円筒ガラスが最適であるが円筒ガラスには,その内面反射を鏡に映し出すという欠点がある.これを克服する方法を考案した.また,回転対称体の鏡の曲率は全方位画像の垂直方向の視野の広さに関係するが,視野の広い全方位画像を得るには曲率の高い鏡を用いる必要がある.金属加工技術によりこれを可能にした. (4)全方位視覚センサを用いた実環境における実験 先に述べた小型の全方位視覚センサと実際のロボットを用いて,ロボット間の相対位置決定アルゴリズムが,実環境においても有効に働くことを検証した.7台のロボットに小型の全方位視覚センサを取り付け,得られた全方位画像から画像処理により他のロボットの投影を検出し,それを基に,ロボットの相対位置の復元とロボットの同定(ロボットAから見たロボットCが,ロボットBの全方位画像中のロボットの投影のどれに相当するかを決定する)を行った.これによりロボット間の相対位置決定アルゴリズムが実環境においても十分利用可能であることを確認した. (5)全方位視覚の有効性の検討 これまで,ロボットの視覚としての全方位視覚の有効性を考察したが,ここでは,複数ロボットシステムの視覚としてだけでなく,一般に全方位視覚の可能性について議論した.また,複数ロボットシステム以外の実用的な応用についても議論を行った. 視野に制限を持たない全方位視覚は,ロボットの視覚情報処理を格段に単純かつ頑強なものにする.今後,実用的なロボットが開発されていく過程で,本研究で開発した全方位視覚センサやロボットの位置決めアルゴリズムは重要な技術となると思われる.
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