研究概要 |
1993年に起きたミシシッピ-川の大洪水は,最大規模の洪水であり,その被害規模は甚大なものであった.この災害は,異常外力に対する災害防除であり方について多くの教訓を残した.洪水期間中及び洪水後に行われた詳細な調査結果は米国だけでなく世界の水防災上重要である. 平成7年度にはミシシッピ-川流域の現地調査を行い,被災地の状況を確認した.アメリカの研究調査機関及び行政機関へ研究者を派遣して,1993年洪水に関する情報と資料の提供を受けた.災害時の情報伝達や洪水予報システム,水防災体制,避難体制等がどのように機能したかについて情報を収集した.また,実際の危機管理としてどのようなことが行われたかについて,Corps of Engineering(COE)USAより情報の提供を受け,日本における危機管理のあり方との違いに議論を行った.得られた情報をまとめると以下の様であった.大規模な災害をもたらしたミシシッピ-川の氾濫は,上流部・中流部・下流部の治水計画の見直しを迫るものであったが,このような洪水に対して今後どのように対処すべきかという結論は未だ明確になっていない.これは,アメリカでは政策に関する意志決定システムが日本と異なっており,治水に関する技術だけでなく政治的な問題として解決が図られるためである.アメリカでは日本とは異なり,危機管理活動を行う専門組織がある.その権限は明確であり,避難などは強制的に行わせることができる.また,ボランティア活動も活発に行われる.これらの理由により,危機管理活動やボランティア活動が迅速かつ有効に機能し,被害の拡大が防がれた. 平成8年度には,日本で開催された氾濫原の危機管理に関する国際ワークショップに参画した.これは,現在世界において多発している水災害に対してできるだけ人命・資産の被害を出さないようにするために,氾濫原管理の方法や施策,実際に行われた洪水時の危機管理に関する国内外の事例について議論を行い,その技術と情報の交換を行おうとするものである.これは世界に先駆けて開催された.このワークショップの中で,ミシシッピ-川1993年洪水に関する技術情報として,堤防の被災,被害の状況,洪水保険,災害復旧策,氾濫原管理,実際に行われた危機管理活動・ボランティア活動並びにアメリカ大統領直属の危機管理組織であるFEMAのシステムや活動が発表されている.この他
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,洪水発生の原因,ミシシッピ-川の洪水防御システム,メディアによる報道の問題点等が紹介されている.概要は以下のようである.1993年の大洪水の要因は1992年の夏から始まっていて,1993年春から初夏にかけて記録的に雨が多い状態であり,夏の雨が始まった時には既に土壌が飽和し,河川の水位が高くなっていた.夏には上流域で豪雨が持続したために1993年の洪水は多くの場所で1/100-1/500確率の洪水となっていたと推定されている.これに対して,ミシシッピ川上流の洪水防御システムは,洪水調節他,都市堤防/洪水壁,農地堤防から構成されている.洪水調節地は,1993年洪水を計画通りに機能し,連邦所有の都市堤防と洪水壁も所定の機能を果たし,洪水に耐えることができた.堤防の多くは私有の農地堤防であり,これらの堤防は1/10-1/50確率の堤防に対してしか対処できないものであった.そのために,大部分の堤防が越水されたのである.すなわち,計画通りに洪水防御システムは機能した.しかし,多くの堤防で越水を許し,これが連日のように報道されたために,洪水防御システムが機能しなかったという誤解を抱かせる結果となった. ワークショップを通じて,本研究で得られた成果が発表されており,共同研究者も来日してこのワークショップで講演を行っている.ミシシッピ川の堤防システムの性能や緊急対応・修復工事,洪水予報システム,氾濫時の危機管理が発表されている.連邦の堤防は,1/50-1/500確率に対して設計されており,必要な場所には遮水対策が施されており,堤防の現地検査も行われている.1993年洪水では連邦堤防でも設計が1/50確率であった所の一部は,洪水規模が1/200-1/500と設計基準を大きく上回ったために洪水流が越水し,最終的には欠壊した.設計が1/200クラスであった堤防では,洪水が設計洪水を上回っていたにも関らず,大きな氾濫被害は生じていなかった.1993年洪水によって被災した堤防は,1994年の洪水シ-ズン以前に完了するように図られた.COEの報告によれば砂堤防では小段等の法先でボイルの発生が見られており,この他将来の堤防維持に関する多くの教訓を得ている.さらに,このワークショップでは,日本の治水・氾濫原管理システムについても幅広く発表され,多くの議論が行われており,世界の事例と共に日本の治水技術・危機管理策を世界へ初めて発信することとなった. 隠す
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