研究分担者 |
藤本 哲男 早稲田大学, 理工学総合研究センター, 講師 (50267473)
富岡 淳 早稲田大学, 理工学部, 助教授 (40217526)
TEOH S.H. シンガポール国立大学, 工学部, 助教授
CHEW Y.T. シンガポール国立大学, 工学部, 教授
TEOH S.H シンガポール国立大学, 工学部, 助教授
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研究概要 |
本研究は,シンガポール国立大学との共同研究の柱である三次元成形ワークステーションの2つの応用例に対して,それぞれの実績の概要を以下に示す. 1.生体血管の機械的特性を模擬した粘弾性管の製作の基礎研究 シンガポール国立大学で開発された回転型成形機を用いて生体血管を模擬した大動脈弓モデルを製作するとを目的とし,シリコン製大動脈弓の製作条件の検討と,生体血管の機械的特性を模擬した管の製作及び材料の検討という2つの方向から取り組んだ. 大動脈弓の製作において従来の1軸のみの回転での刷毛塗りによる方法では肉厚の均一化,及び再現性に限界があった.そこで2軸を3次元的に回転させる回転型成形機を用いて肉厚が1[mm]程度で均一な大動脈弓を製作することを目指した.Major軸・Minor軸の回転数,及び塗布量が大動脈弓の肉厚に与える影響を検討した結果,それぞれ0.02[rpm],8[rpm],20[g]×3[回](3時間間隔に塗布)の組み合わせが最適な製作条件であるとの結論を得た.その大動脈弓では標準偏差と平均値の比として表現した肉厚のバラツキが従来約30[%]だったのに比べ20[%]以内に抑えることができ,再現性が向上した.また,生体血管のコンプライアンス特性は体積増加率が低い範囲では圧力の増加量は小さく、高い範囲では大きくなるという傾向を持つ.これまで生体血管の機械的特性を模擬するためにシリコンの多層構造の管を製作してきたが特性を忠実に模擬するのは至っていない.そこでシリコンとは全く特性の異なるスポンジを用いて内層が比較的軟らかいシリコン,中層がスポンジ,外層が比較的硬いシリコンという3層構造の管を試作しその特性を調べた.その結果,体積増加率が40[%]までは外層の特性が現れ,このときの平均コンプライアンス値は0.41[1/mmHg]となった一方,体積増加率が40[%]以降では内層の特性が徐々に現れ0.36[1/mmHg]となり,生体血管の平均コンプライアンス特性に近い傾向になった. 2.抗血栓性材料による血液ポンプの内部コーティング法の確率に向けての基礎検討 血液の流れを渦状にすることで淀みを少なくし,血栓形成をできるだけ防ぐ目的で作られた旋回渦流型補助人口心臓がある.しかしこのポンプにおいても,血液室内のハウジングと血液を流動させるために空気圧駆動で上下するダイアフラムとの間(D-H Junctionという)で血栓が形成される場合がある. この血栓の生じる原因をD-H Junction部の接着部分における段差にあると考え,ポンプ内面を一体コーティングすることでこの段差を解消することを考えた.本研究では抗血栓性材料であるセグメント化ポリウレタン(ミラクトラン E-380)による適正コーティング条件を求めることを目的とし,そのコーティング作業に用いられる回転型成形機の最適運転条件を求めた.この回転型成形機は,互いに垂直な二軸を回転させることにより三次元的な挙動を制御でき,かつ温度調節が可能な装置である.いくつかの試行の結果,Major軸1.00[rpm],Minor軸1.25[rpm]の回転数,オ-ブン内温度50℃の条件において,ダイアフラムの膜厚のばらつきが0.48%と最も均一なコーティングが得られることがわかった.またin-vitroにおける水力学的特性試験により,コーティング処理がポンプの特性に与える影響は極めて微少であることもわかった. さらに,このコーティング処理を行ったポンプと未処理ポンプの抗血栓性を比較するために血液温度37℃,流量5[L/min]を条件にin-vitroにおける血栓形成試験を行った.その結果,コーティング処理を行ったものの方が,血栓を殆ど生じないという結果が得られた. 以上のごとく本研究では当初の目標を達成したばかりか三次元成形ワークステーションの幅広い応用の可能性まで明らかにすることができた.
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