研究分担者 |
全 浩 中国国家環境保護局, 中日友好環境保護中心, 総工程師
斎 文啓 中国国家環境保護局, 環境監測総站, 教授
黄 駿雄 中国科学院, 生態環境研究中心, 教授
単 孝全 中国科学院, 生態環境研究中心, 所長
STEWART Kent テキサス大学オースチン校, 化学・生化学系, 教授
XU Xiping ハーバード大学, 公衆衛生大学院, 助教授
YANAGISAWA Y ハーバード大学, 公衆衛生大学院, 准教授
SPENGLER Joh ハーバード大学, 公衆衛生大学院, 教授
丁子 哲治 富山工業高等専門学校, 環境材料工学科, 教授 (80092790)
川平 浩二 富山工業高等専門学校, 電気工学科, 教授 (30025457)
本仲 純子 徳島大学, 工学部, 助教授 (40035811)
池田 早苗 徳島大学, 工学部, 教授 (20035801)
HUANG Jun-Xiong Research Center for Eco-Environmental Sciences, Professor
SHAN Xiao-Quan Research Center for Eco-Environmental Sciences, Director
QI Wenqi China National Environmental Monitoring Center, Professor
QUAN Hao China-Japan Freindship Environ.Protection Center, Director
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研究概要 |
SOx,NOx分別測定の機器分析技術は急速な進歩を遂げ,先進国では環境保全対策と相まって社会的需要に応じうる体制が整備されてきた。しかしながら,アジア地域や東ヨーロッパ諸国などの発展途上国ではSOx対策でさえこれからといった状況で,中国では石炭,東南アジア等では石油の化石燃料使用量の急増が原因で,大気汚染由来の呼吸器疾患が急増しつつある。大気圏では,酸性雨やオゾン層破壊との関連でSO_2,NO_2,NOの分別測定が不可欠である。 欧米には遅れたが,最近日本でも大気環境の質的評価を点から面に変えることの必要性が認識されはじめ,アクティブサンプラーを備えたモニタリング・ステーションに加えコスト・パフォーマンスに優れたパッシブサンプラーを実際に活用する方向で,環境庁国立環境研究所・新田らを中心に検討が始まりつつある。中国においても,本研究グループの提言により,パッシブサンプラー測定技術の利便性がある程度認識されはじめ,国家環境保護局・科技標准司・尹改司長との面会,会談に成功した。このように,今後のフィールド調査の展開に期待をもてる状況が徐々に整いはじめている。 生活環境中のNO_2個人曝露量をパーソナルサンプラーで正確かつ高精度にモニタリングする環境衛生工学研究上の必要性から,NO_2パッシブサンプラーが柳沢らにより開発された。その特長は,空気中のNO_2ガスをトリエタノールアミンと反応させて吸収させる前に,ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製メンブレンフィルター(孔径1μm,厚さ5mm)を設置して分子拡散の精密制御を行わせる機能を付加することで,風速等の影響を最小限に制御したことにある。これより,NO_2簡易測定で,従来から問題点として指摘されていた高感度・高精度測定が初めて可能となり実用化に成功した。現在,日本国内には実用に供しうるパッシブサンプラーが2〜3種類共存し,競合しながら発展途上にある。柳沢方式のパッシブサンプラーは,その後NO,CO,O_3などにも適用可能なことが示されたが,本格実用化に成功したのはNO_2パッシブサンプラーだけで,NO_2以外についてはまだ製品化の域に達していない。 本研究対象のSO_2パッシブサンプラーについては,これまでに世界中で様々なアプローチが試みられているが,SO_2ガス特有の性質がわざわいするため,風速・気温・湿度等の操作条件を問わずに高精度測定可能なものは開発されていない。SO_2パッシブサンプラー開発では,トリエタノールアミン吸収法,H_2O_2含浸無機系ヒドロゲル吸収法,二酸化鉛吸収法の3種類について風洞実験装置を用いて検討した。トリエタノールアミン吸収法によるSO_2捕集によりSOxをほぼ把握可能と考え,中国の技術的バックグラウンドに適合することを念頭において,数ppbレベルのSO_2検出を可能にするパッシブサンプラーの試作開発を目標にハーバード大学と共同研究を行った。基礎研究を終えたパッシブサンプラー試作品について,ハーバード大学の基本設計による風洞実験装置を用い任意のSO_2濃度に調整した空気環境下で操作特性の解析を進めた。その結果,構成は柳沢方式とし,ポリプロピレン製の特殊な拡散フィルターを経由して総括物質移動係数(K′_<OG>)0.05〜0.15の範囲で目的ガス成分の分子拡散制御を行い,風速等の影響を緩和してから,トリエタノールアミン吸収法によりSO_2を捕集した後,H_2O_2水溶液で固相抽出し,イオンクロマトグラフィーによりSO_4^<2->を分析測定することにより実用可能な試作品の開発に成功した。 SOx,NOx等の有害大気汚染物質に曝露されているにもかかわらず,分析機器や計測装置を利用できない中国等の途上国において,正確かつ簡便にモニタリング可能なパッシブサンプラー技術が普及すれば,当該国民が享受する環境リスクの低減に資する点で,国際貢献度には計り知れないものがあろう。
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