研究分担者 |
HASTOWO Sugy ボゴール研究所, 準教授
LAY Bibiana ボゴール研究所, 準教授
佐原 健 北海道大学, 農学部, 助手 (30241368)
浅野 眞一郎 北海道大学, 農学部, 助手 (60222585)
伴戸 久徳 北海道大学, 農学部, 助教授 (20189731)
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研究概要 |
過去2年間にわたって共同研究を行い、インドネシア側のDr.Layの案内によりインドネシア・ジャワ島各地の土壌から予想以上の新しい活性を有するBT菌を分離することが出来た。そこで今年度は、これまでBT菌が多く分離された地域の土壌を重点的に採集し、新規のBT菌の分離をさらに試みた。一方、日本側では、すでに殺虫活性タンパク質(ICP)遺伝子の特異領域を標的としたPCRプライマーを作成し、殺虫活性の高いBT菌の同定方法を確立していたが、今回はこの方法を用いて、土壌試料からのBT菌の分離同定を進め新規の優良BT菌の選抜を行うこととした。 まず、これまで比較的BT菌の分離確率が良かった地域において72箇所から土壌を採集し、選択培地等を用いてBT菌の分離を試みた結果17株のBT菌が分離された。これらの菌株について、H-serotypeの同定を行ったところalesti,kenyae,indianaがそれぞれ3株、そしてyunnanensisが1株という結果となり、他の株は同定不能であった。次にすでに作成した特異プライマーを用いたPCR法により、それぞれのBT菌株が持っているICP遺伝子(cry)を解析した。その結果,これらの菌株はcryI,cryII,cryV,を含んでいることが判明したが、菌株によってその保有しているICP遺伝子の種類はまちまちであった。 分離された菌株の殺虫活性を調べたところ、その結果は上記のPCR法によるcryの解析結果から予測された結果と良く一致していた。このことは本研究室で確立した方法が、分離されたBT菌の殺虫活性スペクトルの推定に極めて有効であることを裏付ける結果であった。しかしながら、その予想に反し新しく異なった殺虫活性を示した菌株がいくつか発見された。まずINA02菌株のICP遺伝子構成はcryIA(a),cryVでありハスモンヨトウに対しては殺虫活性を持たない菌株のはずであるが、実際は強い殺虫活性を有していた。一方、亜種tenebrionisとして同定されたINA67菌株は,鞘翅目昆虫(ニジュウヤホシテントウ)に対する殺虫活性を有するが、本菌株は鞘翅目昆虫に殺虫活性を示さないはずのcryIとcryIIしか持っていなかった。さらに、SEL09-13株からはどのタイプのcry遺伝子も検出できなかったがコナガに強い殺虫活性を有していた。これらの結果から、既知のcry遺伝子に変異が生じることで殺虫特異性が変化する可能性や、PCR法で検出できなかった未知のICP遺伝子が存在している可能性などが考えられた。そこで、現在これらの菌株からICP遺伝子をクローニングし、その塩基配列をすでに報告されている配列と比較するとともに、大腸菌による発現系を用いた生物検定法により,その殺虫活性スペクトルの解析を進めている。いままでのところ、INA02株のcryVの塩基配列が既に報告されたものと異なっていることが判明した。 以上、これまでの一連の研究において、インドネシア各地の土壌は、予想以上にBT菌株を含んでおり、日本においてよく分離される九州の養蚕農家ならびに九州各地の土壌より分離効率の良いことが明らかになった。また、ICP遺伝子をPCR法で解析することで、迅速にBT菌株の殺虫活性スペクトルを予測することならびに新しいcry遺伝子の発見が可能となった。具体的には、この方法を用いて、防除が難しいとされているハスモンヨトウに対して強い殺虫活性を持つINA02株,ヤマトヤブカに活性を持つSKW株そしてニジュウヤホシテントウに活性を持つINA67株など新規のBT菌株を得ることが出来た。これらの昆虫は、現在世界各国における主要害虫であり、本研究により分離されたBT菌株を微生物農薬として利用するための応用研究が今後望まれる。
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