研究分担者 |
メンドーザ D フィリピン大学, 農学部, 助教授
サモンテ ヘンリーP フィリピン大学, 農学部, 教授
菅野 均志 東北大学, 農学部, 助手 (30250731)
木村 和彦 東北大学, 農学部, 助手 (10183302)
伊藤 豊彰 東北大学, 附属農場, 助教授 (10176349)
水野 直治 北海道分理科短期大学, 酪農科, 教授 (90229708)
金沢 晋二郎 鹿児島大学, 農学部, 助教授 (10011967)
茅野 充男 東北大学, 農学部, 教授 (10007677)
MENDOZA Danilo Faculty of Agriculture, University of Philippines
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研究概要 |
1991年6月,フィリピン・ピナツボ山は今世紀最大級の噴火をした.ピナツボ山から噴出した火山灰の一部は成層圏まで吹き上げられたが,噴出物の大部分は火口から半径20km以内のザンバレス山地にほぼ同心円状の等厚線を描くように降下した.この山地,斜面に堆積した火山灰は雨季の強雨の度にラハ-ル(火山泥流)となってその周辺地域の民家や農地に大きな被害を与えている.ラハ-ルによる被災地は噴火後4年経過した1995年の雨季にもさらに広がった. 今回のラハ-ル被災現地の土壌・植生調査はルソン島中央平原における1994年までの最大のラハ-ル被災地であったバンバン川流域のタ-ラック州コンセプション市付近で行った.この付近は被災前は水稲栽培中心の農業が行われていた.このコンセプション市より約10km上流のバンバン-マバラカット付近ではサトウキビが主要作物であった.その付近も1地点調査した. このラハ-ル堆積物はその大部分が新生火山灰である.全ケイ酸含量は60-65%で,その岩質は安山岩質ないし石英安山岩質である.主要鉱物は火山ガラスと長石で,このほかに石英,角閃石,磁鉄鉱,黒雲母などが含まれていた.このほか,可給熊リン含量が数十mgP_2O_5/100gとかなり高く,リン灰石が含まれるものと考えられた. この堆積物の粒度はラハ-ルの流下する河川とその流域の地形,本流からの距離,1回のラハ-ルでも発生初期から終了までの経過時間などによって異なるとみられ,シルト質なものから砂質,レキ質なものまで水平,垂直方向に様々であった.細粒質部分の粘土含量は十数%であったが,その内容は大部分が無色火山ガラスであり,少量のスメクタイトーバーミキュライトが混入していた.場所によってはごく少量の管状ハロサイトも含まれていた.スメクタイトーバーミキュライトの混入はほぼ全部の地点で認められたが,ハロイサイトの混入は地点によって異なった.ハロイサイトはラハ-ルが流下する過程で旧表土から混入した可能性が考えられた. ラハ-ル被災地の中でもその流れの強い部分は堆積と侵食を繰り返すため,植生はほとんどない.これに対して,一時期のみのラハ-ル被災地は,すでに,野生のサトウキビや豆科のパイオニア植物が繁茂するに至っている.野生のサトウキビの草丈は高いもので3mで,密生部では被度が100%に近いところもあった. このラハ-ル被災地帯での農業生産を再開するためにはまず何よりも危険なラハ-ルの終息が前提である.ラハ-ルの終息後その被災地の環境と農業をなるべく迅速に回復するためには十分な無機養分と水の供給が必須である.この堆積物は砂質で透水性が高く,保肥力はほとんどない.従って,一般の速効性肥料では作物生産は困難を伴うとみられた.一方,水についてはある程度の供給が特にコンセプション付近では可能である.現在のラハ-ル被災地は過去のラハ-ル被災地でもあり,この地域全体がごく傾斜の緩い火山山麓扇状地様の性質を持っている.そして,扇端に相当する地域に現在の水田地帯が多く広がっている.扇端付近では伏流水が浅くなっており,ポンプで汲み上げることにより乾期でも水田を作ることができる.新ラハ-ルの厚さが1m程度の浅いところではこれまで同様のポンプを使って水が得られる. このような地域では近年わが国で開発されたポリオレフィンコート(POC)肥効調節肥料を使えば,基肥1回の施与でもかなりの作物生産がすぐにできるのではないかと考えられた.フィリピン大学に造成したラハ-ル堆積物枠圃場におけるトウモロコシ栽培ではPOC-尿素を基肥1回施与により土壌で栽培した場合と同様の収量が得られた.これに対して速効性肥料(被覆なしの尿素)では追肥を行っても基肥1回のPOC肥料よりかなり収量が低かった.一方,水稲栽培では鉄欠乏,新鮮有機物が共存する場合の硫化物による障害などが懸念された.
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