研究分担者 |
HANDY Daniel 米国テキサス工科大学, 細胞生化学部, 助教授
GERTON Georg 米国ペンシルバニア大学, 医学部, 準教授
柳町 隆造 米国ハワイ大学, 医学部, 教授
佐藤 英明 東京大学, 医科学研究所, 助教授 (80093243)
岡部 勝 大阪大学, 微生物病研究所, 助教授 (30089875)
豊田 裕 帯広畜産大学, 原虫病分子免疫研究センター, 教授 (90050418)
HARDY Daniel 米国テキサス工科大学, 細胞生化学部, 助教授
渡辺 研 米国ラホーヤがん研究所, 研究員
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研究概要 |
優性生殖系の生物は,すべて精子と卵という配偶子を形成し,受精を通して生命を連続させている。生体内において,哺乳動物精子が卵との間で受精を成立させるには,卵野細胞外マトリックスである透明帯を通貨することが必要不可欠である。この透明帯は単なる精子侵入の障害物としてだけではなく,厳密な認識機構に基づいた精子の付着や結合の役割を果していることが明らかになってきている。一方,精子はその頭部先端に先体胞(アクロソーム)とよばれる加水分解酵素を含む細胞内小器官をもっており,透明帯からの「刺激」によって引き起こされるアクロソーム反応により,これらの加水分解酵素を放出して精子の透明帯通過を容易にしているものと考えられている。アクロソームが多くの加水分解酵素を含むことから,細胞中での消化を営むリソソームと対比される。しかし,リソソームは不要になった物質をエンドサイトーシスにより取り入れて細胞内で分解作用を行うのに対し,アクロソームはエキソサイトーシスで加水分解酵素などの内容物を放出していることから明確にリソソームと区別することができる。アクロソームが精子特異的に存在する細胞内小器官であるのでその内容物は受精の際に重要な役割を果していると考えられる。 精子の透明帯侵入・通過機構に関しては,統一的な見解はないもののアクロソーム内にあるタンパク質分解酵素によって透明帯が限界分解され,精子自身の運動性により通過するという考え方が一般的である。精子アクロソームに局在するトリプシン様セリンプロテ-ゼアクロシンは,その透明帯分解の役割を果たしている酵素として考えられてきた。標的遺伝子組換え法を用いてアクロシンを欠損する変異マウスを作製・解析した結果,その変異マウスは野性種と同等の自然交配能を有していることが判明した。そこで,アクロシン欠損マウスの精巣上体精子についえ検討したところ,野生種のものよりも卵透明帯への精子の侵入・通過に有意な遅延が認められた。また,アクロシン以外の新規セリン系プロテアーゼが精子に存在することも見い出された。この新規セリンプロテアーゼ遺伝子の同定とクローンの単離を試み,その候補者としてカッパインをコードするcDNAと染色体遺伝子クローンを単離・解析した。マウスカッパインは前駆体プロテアーゼとして合成され,36残基の軽鎖と300残基の重鎖がひとつのジスルフィド結合により連結されているような成熟型酵素にプロセシングされることが明らかとなった。マウスカッパイン遺伝子は,全長約5キロ塩基対で5個のエクソンより構成されており,マウス染色体上でシングルコピーとして存在することも明らかとなった。また,カッパイン遺伝子は精巣特異的に発現しており,精子形成過程ではほかのアクロソームタンパク質遺伝子と同様にパキテン期精母細胞ですでに転写が開始しており,半数体積細胞でその発現が最も盛んであった。組織化学的な観察より,カッパインはアクロソーム下部,あるいはアクロソームと接する赤道部上端に沿った限定された部位に局在していることが判明した。このカッパインの生体内機能解析のために,ターゲティングベクターを構築してES細胞経由で遺伝子相同組換えを試み,目的のES細胞クローンを単離した。現在,カッパイン遺伝子に変異を生じているキメラマウスより,カッパインを完全に欠損する変異マウスを作製中である。
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