研究概要 |
アレルギー疾患は,近年,社会環境の変化に伴いその発生率が急激に高くなり,先進工業国の社会的問題ともなっている。中でも小児から発症するアトピー性皮膚炎は,長期経過をたどり,しかも難治性であり,その対応は急務である。しかし,病原病態解析とこれに連動する根治療法開発は遅れ,未だ充分な成功を治めてはいない。これは,発症メカニズムが複雑であること,動物臨床例を含め適した動物モデルがないことに主として起因している。本研究は,我々研究グループが最近発見したアトピー性様皮膚炎を自然発症するマウスの病態発現メカニズムを分子免疫および遺伝子工学的手法を駆使して総合的に解析し,これを軸にアトピー性皮膚炎の発症メカニズムを解明する目的で組織された日米による研究プロジェクトである。その研究経過と得られた研究成果は,以下に示す如くである。 1.本研究全般に必要なSPFおよびコンベンショナルNCマウスの繁殖は,予定どおり拡大・維持が可能となった。 2.SPF NCマウスは,生後約7週齢以前にコンベンショナル環境下に移動した場合にかぎり,皮膚病が発症するが,それ以後ではたとえ発症マウスと同居させても発病しなかった。 3.コンベンショナル環境下で飼育されたNCマウスは生後約7週齢より皮膚炎を発症し,ほぼ同じ時期より高IgE血症が確認された。そして,皮膚炎の病状に悪化と比例し,末梢血IgE濃度が上昇した。 4.皮膚炎局所において,マスト細胞の増加と脱顆粒像が観察された。さらに,好酸球の浸潤および好酸性物質の局所沈着が顕著に認められ,これらの細胞が活性化状態にあることが明らかとなった。その結果,マスト細胞と好酸球に由来する起炎物質の病態関与が強く示唆された。 5.アトピー性皮膚炎に特徴的な皮膚組織内へのリンパ球およびマクロファージの浸潤は,皮膚病変の悪化に比例し顕著となった。 6.皮膚炎局所における,Bリンパ球のIgE産生に必要なIL-4,IL-5,IL-6などTh-2サイトカインの産生細胞として,活性化マスト細胞および浸潤CD4陽性Tリンパ球が同定された。また,これらの細胞群はIgE合成に対し抑制的に働くインターフェロン-γを殆ど産生していなかった。 7.IgE誘導にはTリンパ球上のCD40リガンドとBリンパ球上CD40結合,さらにIL-4刺激が必要であるが,NCマウスにおいてはCD40-CD40リガンド結合には異常はなく,Bリンパ球のIL-4感受性が著しく高いことが,シグナルトランスダクションレベルからも明らかとなった。 8.ハプテン反復塗布によってSPF NCマウスに,アトピー性皮膚炎に酷似した病態を誘導可能となり,新たな解析モデルを作出できた。高IgE血症を伴うことから,現在,IgEレセプター欠損マウスとの交配により得られたIgEレセプター欠損NCマウスへの本実験システムの応用を試みている。これによって,IgEの病態発現への関与を明確にする直接証拠を得ることができる。 9.高IgE血症を伴うヒトアトピー性皮膚炎患者において,CD4陽性Tリンパ球の局所浸潤,さらにマスト細胞の増加と活性化,好酸球浸潤と活性化が確認された。一方,CD8陽性Tリンパ球の浸潤は極めて少数であり,抑制性機能の低下が推察された。この様な現象は,皮膚炎発症NCマウスとほぼ一致した。 10.現在,NCマウスに発症する皮膚炎およびIgE産生亢進に関連する遺伝子の特定すべく研究を続行中である。 以上,NCマウスに自然発症する皮膚炎は,臨床学的,免疫学的,疫学的研究によって,高IgE血症を伴うヒトアトピー性皮膚炎と同様の病態を示すことが確認された。即ち,NCマウスはヒトアトピー性皮膚炎の自然発症動物モデルとなることが明らかとなった。また,現在,続行中の研究の成功によって,本疾病の制御遺伝子の発見とこれに連動する新たなる治療法の基礎を得ることが可能となる。
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