研究分担者 |
VAN Blitters オダンダ癌研究所, 生化学部門, 部長
GLOMSET John ワシントン大学, 医学部, 教授
坂上 洋行 (阪上 洋行) 東北大学, 医学部, 助手 (90261528)
後藤 薫 東北大学, 医学部, 助教授 (30234975)
加納 英雄 札幌医科大学, 医学部, 教授 (70045475)
VAN BLITTERSWIJK Wim J Het Netherlands Kanker Institute (The Nethderlands Cancer Institute)
BLITTERSWIJK ヴァン オランダ癌研究所, 生化学部門, 部長
VON Blitlers オランダ癌研究所, 生化学部門, 部長
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研究概要 |
イノシトールリン脂質(PI)代謝産物は細胞内情報伝達の2次メッセンジャーとして重要な機能を担ううえに,膜の細胞内輸送機構にも重要であることが知られつつある.その代謝産物のジアシルグリセロール(DG)がプロテインキナーゼCへの2次メッセンジャー機能を担うこと,およびPAも新たな2次メッセンジャーである可能性が指摘されていることに注目して,本研究ではDG--ホスファチジン酸(PA)変換に働く酵素のDGキナーゼとPAホスファターゼに対象を絞り,これらの酵素の分子構造を遺伝子工学的に解明し,それらの発現局在と活性特性を明らかにして,DGとPAの情報伝達機能における機能の理解を深めることを目指した. 先ず,ラット脳cDNAライブラリーをスクリーニングすることにより,四種の異なるDGキナーゼ分子種を同定して,I-IV型と名付けた.I-II型はいずれもC側にATP結合部位を持ち,N側に2コのEF-handとZinc Finger様構造を持ち,互いの相同性は58%であった.細胞内ではI型が可溶性画分に,II型は膜画分,II型が両画分に存在した.脳内の発現局在を遺伝子組織化学で調べると,I型は白質に限られ,抗体による検索の結果,オリゴデンドロサイト特異的であることが判明した.髄鞘形成不全マウスでは脳内発現が認められないので,髄鞘形成維持への関与が示唆される.II型は線状体,側坐核,嗅結節と下垂体中葉に発現を限局しており,ドーパミン作動性神経伝達への関与が示唆される.但し,ドーパミン2型受容体遺伝子ノックアウトマウスの線状体での発現には変化が認められなかった.II型については小脳プルキニエ細胞に最も強く,そして顆粒細胞にも明確に発現が認められたので,小脳運動調節機能に重要であることが示唆される.ところが,IV型は分子構造上で前者三分子種と大きく相違し,EF handを持たずにC端にankyrin-like repeatを持ち,既報のショウジョウバエで網膜変性原因遺伝子の一つのrdgAと相同性が認められた.しかしラット網膜では視細胞ではなく双極細胞に発現が局在しており,相同分子の種による機能相違が示唆される.さらに,分子構造内に核移行モチーフを含んでおり,培養細胞に強制発現させると核に明確に局在するので,この分子は核内での転写調節への関与が示唆される.一方,研究分担者のJ.A.Glomsetはこれら四種とは異なり,基質としてアラキドン酸含有DG指向性のありしたがってPI代謝特異と見なされるDGキナーゼの分子構造をラットで解明したので,分担者の後藤薫がワシントン大学に渡米滞在してその脳と網膜内局材を共同で研究し,その所見について現在論文作製中である.J.A.Glomsetは来仙して,当研究室に短期滞在して,研究情報交換と院生の研究指導をを行った.分担者のW.J.van Blitterswijkは我々が発見した四種とは異なる第五型のヒトDGキナーゼ分子を同定し,その脳内発現を当方で分担者の後藤薫と坂上洋行が解析し,その所見を共同でまとめて別紙のごとく発表した.van Blitterswijkも来仙して当研究室に短期滞在して,研究情報交換を行った.分担者の加納英雄は以上の六種のものとは異なるヒトDGキナーゼ分子を同定し,それはpleckstrin homology領域とEPH型チロシンキナーゼ構造を持つことを明らかにし,新たな機能を担うことを示唆した.さらにPAホスファターゼII型の遺伝子クローニングに成功し,この分子は35kDaで膜結合型酵素であり,hic53と名付けたHO誘導型遺伝子と相同性を持つことを明らかにした. 以上の結果,この研究グループによりDGキナーゼとPAホスファターゼ酵素分子の分子多様性の全貌を明らかにすることが出来,当初の研究目標はほぼ達成出来たと考える.今後は,発見した分子を種々の実験条件下におけるin vitro細胞系での発現調節を行って,これらの機能解析を遂行する覚悟である.
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