研究分担者 |
DAVID James クイーンスランド大学, 分子生物学遺伝子工学センター, 上級研究員
犬飼 浩一 東京大学, 医学部・附属病院, 医員
片桐 秀樹 東京大学, 医学部・附属病院, 医員
谷澤 幸生 山口大学, 医学部・附属病院, 助手 (00217142)
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研究概要 |
哺乳動物促通拡散ヘキソース輸送体には、GLUT1からGLUT5までの5種類のアイソフォームが存在し、いずれも細胞膜を12回貫通し、N末端とC末端は細胞内に存在するトポロジーを有する。これらのアイソフォームは糖輸送特性に違いがあるだけでなく、細胞内での局在も異なっている。また、この分子はインスリンによる糖取り込み機構の担い手であり、糖尿病とも深く関わる。すなわち、GLUT4はインスリンにより細胞膜へ動員されて糖輸送活性の促進に寄与する。 我々は、本研究助成を受け、オーストラリアのJames博士の研究グループと、促通拡散ヘキソース輸送体のアイソフォーム間でキメラ輸送体を作製する共同研究を進めた。まず、ラットGLUT5はグルコース輸送活性は有さずフルクトース輸送体であることを示し、さらにGLUT1とGLUT5のキメラ蛋白をCHO細胞に発現させて、細胞での発現部位を免疫組織染色で確認すると共に、グルコースおよびフルクトースの輸送特性を検討し、グルコースおよびフルクトース輸送能に必要な部位の解明を試みた。これらの結果より細胞内ループ部分および膜貫通ドメイン7-12がGLUT1のグルコース輸送能にきわめて重要と考えられる一方、フルクトース輸送能については、GLUT5のC末端細胞内部位をGLUT1で置き換えただけのキメラ輸送体にさえフルクトース輸送能がなく、GLUT5のフルクトース輸送能の構造要求性は他のヘキソストランスポーターに比べて厳格であることが示された(Inukai K et al.Endocrinology 136 : 4850-4857,1995)。 促通拡散ヘキソース輸送体の細胞内ソーテイングについては、局性のある細胞がよいモデルとなる。そこで、腎尿細管由来のMDCK細胞をフィルター上に局性をもった状態で培養し、GLUT3はapical側にGLUT1はbasolateral側にソーテイングされることを、形態学的ならびに糖輸送活性の測定の画面から示した(Pascoe WS,Inukai K,Oka Y,,Slot JW and James DE.Differential targeting of facilitative glucose transporters in polarized epithelial cells. Am.J.Physiol 271 : C547-
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C554,1996)。また、小腸上皮細胞のモデルと考えられるCaco-2細胞では、GLUT5はapical側に、GLUT1はbasolateral側に局在し、消化管腔から吸収した糖を血管内に取り込むのに関わっている。そこで、細胞内ソーテイングを決定するモチーフを解明するために、GLUT5とGLUT1の間で様々なキメラを作製し、ヒト消化管上皮細胞のモデルであるCaco-2細胞に発現させ検討した。その結果、膜貫通部位6と7の間にある細胞内ループ部分がGLUT1であればbasolateral側に、GLUT5であればapical側に局在し、Caco-2細胞におけるGLUT1とGLUT5のソーテイングには細胞内ループ部分が大きな役割を演じていると考えられた(Inukai K et al.Molecular Endocrinology,in press 1997)。 インスリンによる糖輸送促進機構についても、研究を進める上での情報交換を大いにすすめた。そのひとつが、脂肪細胞でのGLUT4の細胞膜上へのトランスロケーションを簡便に検出する、membrane sheet assaynの導入である。これについては、オーストラリアのJames研究室での直接の指導が有用であった。この方法を用いて、インスリンによる糖輸送促進機構についての研究も進めた。3T3-L1脂肪細胞にPI3キナーゼの110KDサブユニットを過剰発現させると、インスリン非存在下でも糖輸送活性の著明な上昇がみられ、これはGLUT4の細胞膜へのトランスロケーションを伴っていた。すなわち、インスリンによる糖輸送促進機構でのPI3キナーゼの活性化の重要性が確認された(Katagiri H et al.J Biol Chem 271 : 16987-16990,1996)。一方、dominant negaiveのp85の過剰発現細胞では、インスリン刺激によっても、抗リン酸化チロシン抗体を用いた免疫沈降物のPI3キナーゼ活性はほとんど増加せず、GLUT4の細胞膜へのトランスロケーションも認められず、糖輸送活性への促進効果も著明に抑制された(Katagiri H et al.Am J Physiol in press,1997)。 また、細胞内ソーテングに関与する分子として、syntaxin-binding proteinのひとつであるmuSEC1をクローニングした(Katagiri H,et al.J Biol Chem 270 : 4963-4966,1995)が、我々よりやや遅れはしたが、James教授らも同様の分子を異なった方法でクローニングし、J Biol Chemに発表した。 以上のように、オーストラリアのJames教授研究室との共同研究は、論文発表のみならず、意見・研究情報の交換、研究方法論の共有と、大きな成果をあげた。 隠す
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