研究概要 |
ボストン大学Salant教授のもとで継代されている培養糸球体上皮細胞は、蛋白尿惹起単クローン抗体(mAB)5-1-6とは反応しなかった。また種々のラット腎由来培養上皮細胞について5-1-6との反応性が検索されたがいずれも陰性であった。 mAb5-1-6認識抗原分子のクローニングを、ボストン大学Salant教授の研究室で調製されたラット腎cDNAライブラリー、並びに市販のラット腎cDNAライブラリーを用いて試みているが、現時点では成功していない。 in vitroで精製されたmAb5-1-6と可溶化ラット糸球体を用いて、affinity column chromatographyを繰り返し、抗原分子の同定を試みたが、これも成功していない。抗原の可溶化条件、mAbの結合条件、抗原の溶出条件等、継続して検索中である。 mAb5-1-6認識抗原の糸球体発生段階での生成について免疫組織化学、並びにmetabolic labelingの手法を用いて検索した。 生後1日のラット腎のクリオスタット切片を用いた免疫蛍光法所見によると、腎小胞形成期においては、この抗原はどこにも証明されない。この抗原が最初に、かすかではあるがはっきりと未熟な糸球体上皮細胞の基底部・側部に証明されるようになるのは、S字管形成期であった。その後成熟するにつれて染色強度を増し、その局在は、臓側糸球体上皮細胞に限局されてくる。またペルオキシダーゼ標識抗体を用いた電顕レベルでの検索によると、この抗原は、毛細管形成期初期には糸球体上皮細胞基底部、並びに側部に線状に証明された。上皮細胞が成熟し足突起が生じるにつれて、その間隙のスリット膜にこの抗原は限局してくる。いずれの時期においてもこの抗原が先端側に表出されることはなかった。 次に^<35>S-メチオニンを用いたmetabolic labelingにより、この抗原の生成状況について検索した。生後1日ラット腎より糸球体をsieving法により調製し、コラゲナーゼにより30分処理後^<35>S-メチオニン500uCiにて30分,60分,90分,120分ラベルした。比較対照として生後5日ラット腎、成熟ラット腎にも同様の処理を施した。2時間のパルスは各々19,972(生後1日腎)4,469(生後5日後),2,475(成熟腎)であった。生後1日ラット腎の標識試料とmAb5-1-6とを反応させた後、抗マウスIgG抗体とプロティンA-affigelにより沈降させ、SDS-PAGE後、autoradiographyにより標識バンドに関する検索を行ったところ、55-kdのバンドがはっきりと認められ、その他43と46-kdの弱いバンドが観察された。生後5日ラット腎の標識試料を用いた同様の検索では、バンドは認められなかった。この55-kdのバンドは既報(J.Immunol,141,807,1988)の51-kd蛋白に相当するものと解された。 また5-1-6に体する感受性にはラット系統間で著しい差があることが判明した。即ち純系のBrown Norway (BN),Lewis (LEW)ラット,雑系のSprague-Dawley (SD),WistarラットにmAb5-1-6を等量1回静注して蛋白尿の経過を観察したところ、SDラットでのみ蛋白尿が惹起されなかった。体重当たりに換算しての等量を静注しても同様の結果であった。^<125>I-標識5-1-6による検索で、SDラット腎には他の系統ラットと等量のmAbが結合していること、また免疫組織化学的検索により、その結合パターンにも差異が認められないことが判明した。SDにて観察された唯一の差は、静注され結合したmAbの局在について6日後に於いても、他の系統で認められた顆粒状への変化が認めれられなかったことで、糸球体上皮細胞表面での抗原分子の架橋とre-distributionとが蛋白尿と密接に相関することが再確認された。 以上の結果を考慮して発生段階での認識抗原の生成について、Wistar,SD両ラット間で比較検討したが、明らかな差異は認められなかった。 発生段階の検索の結果をふまえて、新生ラット腎からcDNAライブラリーを新しく調整し、更にcloningを試みつつある。
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