研究課題/領域番号 |
07044250
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 共同研究 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
湊 長博 京都大学, 医学研究科, 教授 (40137716)
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研究分担者 |
丸田 浩 メルボルンLudwig癌研究所, 主任研究員
久保田 浩司 京都大学, 医学研究科, 助手 (80263094)
服部 雅一 京都大学, 医学研究科, 助手 (40211479)
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研究期間 (年度) |
1995
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研究課題ステータス |
完了 (1995年度)
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配分額 *注記 |
4,800千円 (直接経費: 4,800千円)
1995年度: 4,800千円 (直接経費: 4,800千円)
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キーワード | 核内蛋白 / GTPase活性化蛋白 / プロセッシング / 低分子G蛋白 / ロイシンジッパー / PEST配列 / がん抑制遺伝子 / 第19染色体 |
研究概要 |
1.Spa-1遺伝子およびその遺伝子産物(Spa-1蛋白):Spa-1遺伝子は、正常静止期リンパ球にはほとんど発現されず、それらが抗原やサイトカインの刺激により増殖性細胞周期に侵入後比較的後期に発現誘導される遺伝子として単離された。Spa-1mRNAの発現は、リンパ造血系組織に特異的で新規の蛋白合成に依存している。全長は、3.6kbで、長い5'UT領域に続き693アミノ酸をコードしうるORFを有している。Spa-1蛋白は、N末端にヒトRap-1 GTP ase activating protein (Rap-1GAP)及び最近ヒト結節性硬化症の原因遺伝子として単離されたTSC-2と高い相同性を示す領域(GRD)を有する。このGRDの融合蛋白は事実、TSC-2のGRDの同様Rap1に対するGAP活性を示しうることがわかっている。C末側には、ロイシンジッパー構造が存在し、その前には蛋白のプロセッシングに関わるとされるPEST配列がいくつも存在している。GRDとPEST配列の間の領域は、すでに報告されている配列とは全く相同性を有さない新規の構造である。 2.Spa-1蛋白の同定(翻訳後修飾と核内移動):全長Spa-1cDNAのin vitro transcription/translation及びCOS細胞への発現により、Spa-1蛋白は85kDaの分子であることが示された。他方、Spa-1蛋白に対する抗体を用いた解析から、正常のリンパ球におけるSpa-1分子は、主に68kDaの分子として専ら核内に存在することが明らかとなった。この分子量の差異につき検討を進めた結果、以下の点が明らかになった。 1)COS細胞に発現されたp85を活性化リンパ球の細胞質分画と混合することにより、C末側のプロセッシングにより短時間にp68へと分解される。 2)p85は専ら細胞質内に局在するが、C末側をプロセスされた蛋白は核内へと移行する。 以上の結果から、Spa-1蛋白は転写翻訳後、恐らくそのPEST配列のために活性化リンパ球内では迅速に細胞質内でプロセスされ(p68)、核内へと移行することが示唆された。 3.Spa-1蛋白のリンパ球活性化に伴う発現動態:静止期にある正常リンパ球を、ComAで刺激後その細胞周期進行に伴うSpa-1蛋白(p68)の発現動態を詳細に解析した。p68はリンパ球がG0/G1期よ
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りS期へと進行するために伴い次第に発現誘導され、S期〜G2/M期でピークとなり細胞がG1期に戻ると共に再び発現は減弱を示した。この動態は、p34cdc2の発現及びそのH1ヒストンキナーゼ活性のそれとはほぼ同様であった。この結果、Spa-1蛋白の発現は、細胞周期に連動して厳格に制御されていることが明らかとなった。 4.Spa-1蛋白の機能:細胞増殖の抑制:Spa-1cDNAを、全長あるいはC末側欠失型でNIH3T3細胞へNeo耐性遺伝子と共に共導入し、G418存在下でのコロニー数を検討した。ベクターのみの対照に比し、全長Spa-1cDNAでは軽度のコロニー数減少が認められ、さらにC末側欠失型cDNAではより著明なコロニー数の抑制がもたらされた。すでに我々は、次に、Spa-1cDNA stable transformantを確立至、その解析を終えている。Spa-1cDNAとりわけそのC末欠失型cDNAの高発現株の確立は困難であり、頻回の試みによってようやくいくつかの低発現株(NIH/Spa-1)が得られたのみであった。通常の培養条件下で独立に得られたNIH/Spa-1はベクターのみの対照(NIH/SRa)株に比し、明らかに増殖速度の遅延及び飽和濃度の低下を示し、これによってもSpa-1が細胞増殖抑制的に働くことが支持された。NIH/Spa-1細胞を血清除去によりG1/0期に停止させると、Spa-1蛋白の細胞内蓄積が認められるが、細胞自体に大きな変化は見られない。ところが、この状態から血清再添加により細胞周期へ同調的に再進入させると、S期への進行に伴って細胞は急速に死滅していくことが明らかとなった。形態学的にこれは、いわゆる分裂破綻mitotic catastrophesといわれる像に酷似していた。この結果は、Spa-1蛋白のエクトピックな過剰発現は、細胞周期の進行、とりわけS期の進行に明らかに抑制的に作用することを示唆するものである。 5.Spa-1蛋白の機能(低分子G蛋白との相互作用):Spa-1蛋白のN末側GRDの存在は、Rap-1などの低分子G蛋白との相互作用の可能性を示唆するものである。この点を検討するため、バキュロウィルスベクターにより発現させたSpa-1蛋白と、各種の精製G蛋白の結合性を直接in vitroで解析した。その結果、Spa-1蛋白の一定の条件下で確かに、Rap1及び核内にある唯一のG蛋白であるRanと特異的に結合しうることが判定した。他方、細胞膜に結合しているRasとは全く結合性を示さなかった。さらに、GRDを欠失したリコンビナントSpa-1蛋白は、上記G蛋白との結合性を示さないことからこの結合が確かにGRDドメインを介するものであることも示された。この結果が直接的なものか、第3の蛋白の介在によるものかは今後の検討問題である。免疫沈降法では、核内のp68Spa-1は、分子量約25kDa及び26kDaの少なくとも2つの蛋白が特異的に共沈され、さらにゲルろ過による解析では、リンパ球の核内に存在するp68Spa-1蛋白は、分子量約300kDaの大きな分子複合体として存在することが明らかとなっている。現在、これらSpa-1会合分子の同定を進めている。 6.Spa-1遺伝子の染色体マッピングと白血病細胞における発現:RCマウスを用いたマッピングよりマウスのSpa-1遺伝子は、第19染色体の最もセントロメア側にマップされた。同部位はヒトでは第11染色体(11q13)に対応する部位であるが、この点は現在ヒトSpa-1遺伝子の単離とマッピングを進めており検討予定である。 次にいくつかの増殖因子(IL2、IL3、IL4、IL6、IL7など)依存性の細胞株と非依存性の白血病由来細胞株について、Spa-1mRNAの発現を比較検討した。その結果興味深いことに、前者では例外なくSpa-1mRNAの強い発現が認められたのに比し、後者ではほとんどその発現が認められなかった。白血病化に伴うSpa-1mRNAの発現消失の機構と意図につき、現在ゲノムのレベルでの解析を進めている。 まとめ すでに、神経線維腫症の原因遺伝子NF-1が低分子G蛋白Rasと、また結節性硬化症の原因遺伝子TSC-2が同Rap1と、各々相互作用することによって恐らく細胞増殖抑制的に機能していること、そしてこれら遺伝子の異常によって、組織特異的な(NF-1は主に神経系、TSC-2は主に線維芽細胞などの間葉系)細胞増殖性の病態発生にいたることが強く示唆されている。我々が単離同定したSpa-1遺伝子産物も低分子G蛋白(Ran/Rap1)と相互作用すること、細胞増殖に抑制的に機能することなどが明らかとなり、概念的には上記の遺伝子群に共通するものと考えられるかも知れない。その発現が、リンパ造血系に特異的であることからリンパ造血系の異常増殖に関与している可能性が充分に考えられるが、この点については、各種白血球細胞株で例外なくSpa-1mRNAの発現をほとんど認めないという知見は興味深い。今後この方面からの遺伝子解析を検討している。 隠す
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