研究課題/領域番号 |
07044280
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 共同研究 |
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
関口 睦夫 九州大学, 生体防御医学研究所, 教授 (00037342)
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研究分担者 |
作見 邦彦 九州大学, 生体防御医学研究所, 助手 (50211933)
中別府 雄作 九州大学, 生体防御医学研究所, 助手 (30180350)
續 輝久 九州大学, 生体防御医学研究所, 助教授 (40155429)
DEMPLE Bruce ハーバード大学, 公衆衛生学部, 教授
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研究期間 (年度) |
1995
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研究課題ステータス |
完了 (1995年度)
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配分額 *注記 |
2,000千円 (直接経費: 2,000千円)
1995年度: 2,000千円 (直接経費: 2,000千円)
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キーワード | ミューテーター / 遺伝子 / 突然変異 / クローニング / 酸化 / グアニン / DNA損傷 |
研究概要 |
大腸菌はその遺伝子欠損によって自然突然変異率が野生株より著しく上昇するものが知られている。これらの変異はミューテーターと呼ばれるが、これまでに10ヶ以上の遺伝子座がミューテーター表現型を示すことが明らかにされている。その中にはDNAポリメラーゼIIIのサブユニットを構成するタンパク質や複製後のミスマッチ修復に係わるタンパク質をコードするものが含まれている。我々は大腸菌ミューテーター株の解析から、MutT,MutM,MutYの3種のタンパク質がDNA複製の前段階で働くことを明らかにした。それらのタンパク質の生化学的な解析の結果、MutTタンパクは酸化型dGTP(8-oxo-dGTP)を特異的にモノヌクレオチドに分解する酵素活性をもっており、それによってミスペアリングをおこす8-オキソグアニンがDNA中に取り込まれるのを防いでいる。一方MutMタンパクはDNA中に存在する8-オキソグアニンを認識してそれをDNAから除去するグリコシラーゼ活性を持っており、MutYタンパクは8-オキソグアニンと誤対合しているアデニンを特異的に取り除くグリコシラーゼで同じくDNA中に生じた酸化型グアニンを修復する。mutTミュータントで生じる突然変異はほとんどそのすべてがAT→CGトランスバ-ジョン型のものであるが、mutMまたはmutYミューテーターではGC→TAトランスバ-ジョンが特異的に生じる。このようなミューテーターの特性も各タンパクの生化学的特性と、二重、三重ミューテーター変異株におけるミューテーター特性の解析に基づいてうまく説明するスキームを提出することができた。 大腸菌のミューテーターに対応する様なものがヒトの集団中にも存在するとすると、それは高発がん性家系の成因となり得る。重複がんの原因の一つをそこに求めることができるかもしれない。大腸菌での結果を手掛かりとして哺乳動物細胞での研究を進めることの必要性を感じるゆえんである。 まずMutTに相当する活性を種々の哺乳動物の組織や細胞株中に見出すことができたが、なかでもヒトの細胞性リンパ腫由来のJarkat細胞株に特に高い活性を認めたので、その細胞抽出液から酵素の精製を行った。精製したタンパク質について部分的なアミノ酸配列を決定し、それに基づいてオリゴヌクレオチドプライマーを合成し、cDNAをクローニングした。クローン化したcDNAが8-oxo-dGTPaseの活性を有することを、大腸菌mutT^-ミュータント細胞中でcDNAを発現することによって調べた。大腸菌の粗抽出液を部分精製した標品について調べた結果、ヒトのcDNAを発現した大腸菌mutT^-細胞の抽出液中に高い8-oxo-dGTPase活性を検出できた。さらにmutT^-株での自然突然変異の上昇がヒトのcDNAの発現によって著しく減少させ得ること、しかもそれはAT→CGトランスバ-ジョン変異を特異的に抑制するものであることが明らかになった。ヒトと大腸菌のタンパク質は分子量も比較的近く(大腸菌のMutTタンパク質は129アミノ酸で、ヒトのタンパク質は156アミノ酸より成る)、また分子の中央部付近に両者に共通する保存されたアミノ酸配列が見出された。 このようにヒトを含む哺乳動物の細胞にも酸化によって生じたDNAの損傷を防ぎ、それによって遺伝情報の維持に重要な役割を果たす機構が存在することが示されたが、それと発がんや突然変異の抑制の関連を明確にするためにはその遺伝子の構造を明らかにすることが必要である。そのような立場からcDNAをプローブとしてヒトゲノムDNAライブラリーの検索を行い、遺伝子の大部分をクローニングすることができた。ヒトの遺伝子は約9kbの大きさで、少なくとも4つのエキソンを含むことがわかった。その一部をプローブとしてハイブリダイゼーションを行い、ヒトの遺伝子(MTH1と命名)が第7染色体p22に位置することがわかった。さらにマウスのcDNAおよびゲノムDNAをクローニングして、遺伝子欠損マウスを作製して、この遺伝子の生物学的意義を明確にすべく研究を進めている。上に述べた研究を行うに当たり、ハーバード大学のデンプル教授の研究室との交流は実験の細部にわたる技術上の問題の解決から、全体的な戦略の構築に至るまではかり知れない恩恵を得た。
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