洞庭湖地域の湖沼型住血吸虫病の環境疫学調査とその疾病対策に関する研究

• 研究課題/領域番号: 07044287
• 研究種目: 国際学術研究
• 配分区分: 補助金
• 応募区分: 共同研究
• 研究機関: 名古屋市立大学
• 研究代表者: 太田 伸生 名古屋市立大学, 医学部, 教授 (10143611)
• 研究分担者: 何 永康 湖南省寄生虫病防治研究所, 主任 ; 賀 宏武 湖南省寄生虫病防治研究所, 助研究員 ; 張 仁利 湖南省寄生虫病防治研究所, 助研究員 ; 黄 令霞 湖南省寄生虫病防治研究所, 主任 ; 陳 炎 湖南省寄生虫病防治研究所, 副所長 ; 鐘 志南 湖南省寄生虫病防治研究所, 副研究員 ; 羅 仕栄 湖南省衛生庁血吸虫病防治弁公室, 主任 ; 丸山 治彦 名古屋市立大, 医学部, 助手 (90229625) ; 伊藤 誠 愛知医科大学, 助教授 (90137117) ; 金澤 保 (金沢 保) 国立予防衛生研究所, 室長 (10194888) ; 平山 謙二 埼玉医科大学, 教授 (60189868) ; 梶原 徳昭 山梨県衛生公害研究所, 主任研究員 ; 荘 和憲 山梨医科大学, 助手 (90154682) ; 薬袋 勝 山梨県衛生公害研究所, 部長 ; 中島 康雄 山梨医科大学, 教授 (20039845) ; 保阪 幸男 (保坂 幸男) 東京医科大学, 教授 (60072873) ; LUO Shiyong Hunan Institute of Parasitic Diseases, Chief ; HE Hongbin Hunan Institute of Parasitic Diseases, Lecuturer ; ZHONG Zhinian Hunan Institute of Parasitic Diseases, Research Associate ; ZHANG Renli Hunan Institute of Parasitic Diseases, Lecuturer ; HUANG Linxia Hunan Institute of Parasitic Diseases, Research Associate ; HE Yongkang Hunan Institute of Parasitic Diseases, Research Associate ; CHEN Yan Hunan Institute of Parasitic Diseases, Director ; 錘 志南 湖南省寄生虫病防治研究所, 副研究員
• 研究期間 (年度): 1995 – 1996
• 研究課題ステータス: 完了 (1996年度)
• 配分額: 11,800千円 (直接経費: 11,800千円); 1996年度: 5,700千円 (直接経費: 5,700千円); 1995年度: 6,100千円 (直接経費: 6,100千円)
• キーワード: 日本住血吸虫 / 抗体 / 肝線維症 / HLA / TNF-α / ELISA / 超音波診断 / IV型コラーゲン / 血清診断 / B型肝炎 / 肝脾住血吸虫病 / 循環抗原 / 遺伝疫学

研究概要

中国揚子江流域に特徴的な湖沼型住血吸虫症の疫学的解析とその対策法に関して、中国湖南省寄生虫病防治研究所と共同研究を行った。現地の自然環境と社会要因によって決定される感染のリスクファクターを明らかにし、更に臨床症状が重篤化しやすいような体質的素因についても検討し、その地域で行われるべき有効な予防・対策法を確立することを目的とした。それに伴って日本住血吸虫症の診断法の改良と確定についても検討を行った。
研究対策と方法
中国湖南省華容県臨江村を対象とした。揚子江の中州にあり人口は1142名である。1995年度の糞便検査では住民の日本住血吸虫感染率は7.7%であった。5才以上の全住民を対象として日本住血吸虫感染の有無の確認と肝臓の線維化の判定を行った。調査対象者の個人情報として日本住血吸虫感染既往の有無、最近の治療歴、居住年数、水との接触頻度等を記録した。
血液サンプルからはELISAによる抗体検査、肝炎ウィルス検査、type IV collagenとMMP-2値の定量、DNAの抽出と各種遺伝標識の判定を行った。尿サンプルは一般の定性検査を行った他、尿中の日本住血吸虫抗原およびその循環抗原の検査を行った。臨江村内での中間宿主貝の分布を調査し、居住環境での貝との接触リスクの検討を行った。
結果と考察
平成7年度は316名、8年度は459名(全住民の40.1%)を調査対象とした。両年度に亘って調査できたのは175名であった。ELISAによる血中抗体価の測定の結果、被検住民の49.8%が日本住血吸虫に対する抗体が陽性であり、住民の約半数が過去に感染していることがわかった。その陽性者の構成を調べたところ、年長者の男性で農民であるグループの陽性率が有意に高く、ハイリスク群として特定された。この群は水との接触頻度も高く、また過去2年以内の再感染率も高値であった。このように臨江村内での年令・職業別の行動パターンと感染リスクとが相関することが判明した。一方、村内の居住地区の中では有意に抗体陽性率が低い所があった。その地区住民の水との接触頻度は高いものの家屋周辺では中間宿主の生息個体数が少なく、環境整備による影響も大きいことが明らかとなった。住血吸虫性肝線維症は59例がgrade II以上を示した。男女比は47:12で症状の進行度についても成人男性が高リスク群と判定された。
行動パターンに基づく感染のリスク評価の他に、易感染性を規定する遺伝的素因も調査した。住民のHLAクラスIおよびクラスIIのタイピングとTNF-α遺伝子のプロモーター領域の多型性を調べた。そのうちHLAクラスII(DRB1^*0901)と住血吸虫の虫卵抗原に対するIgE抗体産生との間に有意な相関があり、体質的素因として感染リスクの高い人がいる可能性が示唆された。以上のことから臨江村住民の中に、性別、年令、職業および体質的素因の上から感染の高リスク群をある程度推測することが可能であり、その評価によってより重点的な住血吸虫症対策が可能となっていくことが示された。
住血吸虫を含む多くの寄生虫症の疫学調査では、その検査方法が煩雑であり、また検査精度にもまだ問題が多く残っている。更に血清を検査試料とする限りは採血が必要であり、調査へのコンプライアンスの不徹底の原因ともなる。そこで非観血的な検査方法でどの程度の情報収集が可能かを調べた。
尿中の住血吸虫の循環抗原と抗住血吸虫抗体の検出の試みでは、尿中の特異抗体価が血中の抗体価と有意な相関を示すことが初めて明らかとなった。即ち尿を用いたELISAで血清疫学に相当する情報が得られると考えられ、今後の広い応用が期待される。肝線維症の評価法については超音波診断による方法が確立しているが、流行地の現場で機器が常に利用できるとは限らない。そこで肝線維症の血中マーカーとして血清中のtype IV collagenとmesenchimal metaroproteinase-2(MMP-2)を定量して超音波像と比較してみた。その結果、肝線維化の程度とtype IVコラーゲン及びMMP-2値との間に相関が認められた。この場合、個人の診断を決定する精度はないが集団の全体像を評価することには十分に応用可能である。
以上の結果から、より簡便で被検者の負担の少ない検査方法が確立されてきており、その方法を用いて特にリスクの高い住民をよりインテンシブに監視していく効率的な住血吸虫対策が今後は可能である。更にこの地域は揚子江水系の独特の風土条件が存在するので、特にその影響が大きい中間宿主貝の生態を明らかにして、総合的に対策を進めることの重要性が明らかとなった。

研究成果

• [文献書誌] K.Iwaki,S.Nakashima,J.Fu,M.Hato,M.Itoh,K.Suzumori,M.Owhashi,M.Minai & N.Ohta: "Hunan cord blood lymphocytes reactive to Schistosoma japonicum soluble egg antigen." Japanese Journal of Parasitology. 44. 331-335 (1995)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] M.Itoh,N.Ohta,T.Kanazawa,Y.Nakajima,Chuang C et al.: "Urine as a specimen for diagnosis of schistosomiasis." Parasitology International. 46S(発表予定). (1997)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] T.Kanazawa,A.Hayasaka,A.Asahi,N.Ohta et al.: "Type IV collagen and MMP-2 in the sera of schistosomiasis japonica patients in Hu-nan province,China." Parasitology International. 46S(発表予定). (1997)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 太田伸生、保阪幸男、中島康雄、周 達人、陳 炎 他: "中国湖南省の日本住血吸虫病調査:揚子江流域の一村落をモデルとして" 熱帯. 30(発表予定). (1997)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] K.Iwaki, S.Nakashima, J.Fu, M.Hato, M.Itoh, K.Suzumori, M.Owhashi, M.Minai & N.Ohta: "Hunan cord blood lymphocytes reactive to Schistosoma japonicum soluble egg antigen." Japanese Journal of Parasitology. 44. 331-335 (1995)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] M.Itoh, N.Ohta, T.Kanazawa, Y.Nakajima, Chuang C et al.: "Urine as a specimen for diagnosis of schistosomiasis." Parasitology International. 46S (in press). (1997)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] T.Kanazawa, A.Hayasaka, A.Asahi, N.Ohta et al.: "Type IV collagen and MMP-2 in the sera of schistosomiasis japonica patients in Hunan province, China." Parasitology International. 46S (in press). (1997)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] N.Ohta, Y.Hosaka, Y.Nakajima, Zhou D,Chen Y et al.: "Survey on schistosomiasis japonica in Hunan, China (Text in Japanese)" Nettai. 30 (in press). (1997)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] M. Itoh, N. Ohta, T. Kanazawa, Y. Nakajima, Chuang C et al.: "Urine as a specimen for diagnosis of schistosomiasis." Parasitology International. 46S(発表予定). (1997)
• [文献書誌] T. Kanazawa, A. Hayasaka, A. Asahi, N. Ohta et al.: "Type IV collagen and MMP-2 in the sera of schistosomiasis japonica patients in Hu-nan province, China." Parasitology International. 46S(発表予定). (1997)
• [文献書誌] 太田伸生、保坂幸男、中島康雄、周 達人、陳 炎 他: "中国湖南省の日本住血吸虫病調査:揚子江流域の一村落をモデルとして" 熱帯. 30(発表予定). (1997)
• [文献書誌] K.Iwaki,S.Nakashima,J.Fu,M.Hato,M.Itoh,K.Suzumori,M.Owhashi,M.Minai & N.Ohta: "Hunan cord blood lymphocytes reacitive to Schistosoma japonicum soluble egg antigen." Japanese Journal of Parasitology. 44. 331-335 (1995)