情報伝達系におけるNDPキナーゼの役割に関する研究

• 研究課題/領域番号: 07044300
• 研究種目: 国際学術研究
• 配分区分: 補助金
• 応募区分: 共同研究
• 研究機関: (財)東京都老人総合研究所
• 研究代表者: 木村 成道 東京都老人総合研究所, 分子生物学部門, 室長 (60073029)
• 研究分担者: SHEARN A. The Johns Hopkins Univ., Dept.of Biol., Professor ; LIOTTA L. NIH, NCI・Lab.of Pathol., Chief ; ORLOV N. Inst.of Theoret.Exp.Biophysics, Russia Ac, Senior Res ; 石川 直 東京都老人総合研究所, 分子病理部門, 研究員 (30184485) ; LIOTTA Lance A. Lab.of Pathol., NCI,N.I.H., USA ; SHEARN Allen D. Dept.of Biol., The Johns Hopkins Univ., Professor, USA ; ORLOV Nikolay Y. Academy of Sciences, Russia
• 研究期間 (年度): 1995
• 研究課題ステータス: 完了 (1995年度)
• 配分額: 5,500千円 (直接経費: 5,500千円); 1995年度: 5,500千円 (直接経費: 5,500千円)
• キーワード: NDPキナーゼ / nm23 / 情報伝達 / がん転移 / GTP結合蛋白質 / 遺伝子

研究概要

本研究はNDPキナーゼ(nm23)の役割を情報伝達系を中心に、癌転移制御作用などとの関連で国際協力の下に解明することを目的として行われた。その内容は、orlov博士を招聘して行われた情報伝達研究と、国際ワークショップへの出席並びにNDPキナーゼの転移抑制作用を含む生理作用についてLiotta、Shearn博士らとの情報交換のための海外出張を柱としたものである。
1)情報伝達系の解析(招聘研究)
我々は膜情報伝達系において分子スイッチと考えられているGTP結合蛋白質に対して、NDPキナーゼが調節的に関与することをラット肝臓細胞膜グルカゴン感受性アデニル酸シクラーゼ系などを用いて明きらかにしてきた。しかしながら、これらの材料を用いて分子レベルの研究を詳細に行うには情報伝達関連因子の存在量が少なく、解析に困難を伴うことが多かった。今回用いたウシの網膜桿体外節は視覚情報伝達器官として特殊に分化しており、光受容体(ロドプシン:R)、GTP結合蛋白質(トランスジューシン:Gt)など主要構成因子の総蛋白質量に占める割合はそれぞれ50、15%にも及ぶことが知られている。Orlov博士との共同研究により次の点が明らかになった。
網膜桿体外節(ROS)に存在するNDPキナーゼは蛋白質濃度、pH、塩濃度、ヌクレオチド依存性に桿体外節膜への結合、解離を可逆的に行っていることが初めて示された。ROSのNDPキナーゼの大部分は可溶性画分に存在する が、酸性条件下においてそのほとんどが膜画分に結合する。GTPおよびそのアナローグは酵素の膜への結合を抑制するとともに、既に膜に結合している酵素を溶出する作用のあることが判明した。NDPキナーゼの膜結合部位は2種類存在すると考えられ、一方は高親和性でGTP感受性を持ち、他方は低親和性でGTP非感受性であった。このようなNDPキナーゼの挙動は内因性酵素に限らず、ラット由来リコンビナント酵素でも同様に観察された。興味深いことに、2種のアイソフォームに対する結合親和性が異なっていた。
2種類の結合部位の解析を進めるため、Rのみを含む膜、RとGtを含む膜を作成し検討したところ、前者では低親和性結合が、後者では高親和性結合が観測された。Rのみを含む膜に精製したGtを混ぜ合わせることによって、高親和性結合が出現することも明らかになった。従って、NDPキナーゼの高親和性結合部位は光によって活性化されたR(R^*)とGtとの複合体(R^*Gt)が担っているものと推定される。現在この現象の意味を考察中であるが、恐らく、光刺激によってRがGtを活性化する際に、更にNDPキナーゼを結合することによってGtの活性化を迅速かつ効率的に行っているものと推測される。
今回の共同研究は今後の展開に向けての重要な基盤を築いたといえ る。
2)国際ワークショップへの参加と研究交流(海外派遣)
Liotta博士らによる転移抑制因子(nm23/NDPキナーゼ)の発見を出発点として、NDPキナーゼの転移抑制作用の分子機構解明に向けて国際的な研究交流の必要性が明らかになってきた。我々のところではNDPキナーゼについての生化学的、分子生物学的研究成果を挙げつつあり、Shearn博士らも含めた情報交換を計るため木村、石川両名が米国NIHへ訪問した。Liotta博士との交流の中で、我々が最近開始したラット乳癌由来細胞株(MTC、MTLn3)の転移能とNDPキナーゼ発現の問題を討議した。NDPキナーゼ/nm23の転移抑制効果を確認するため、高転移性細胞MTLn3にNDPキナーゼαおよびβ遺伝子を導入し自然転移能を調べたところ、α遺伝子導入により肺転移能は約半分に抑制されたが、β遺伝子の効果は認められなかったというわれわれの結果は興味をもって受け止められた。
NIH訪問に先立ち、パリで開催された第一回NDPキナーゼ/nm23ワークショップに木村、石川両名は参加し、それぞれ“The role of NDP kinases/nm23 in cellular functions."および“Rat NDP kinase isoform genes:structures and expression."の題名の下に報告を行った。これらの報告は参会者の注目を集めるものであった。約100名規模のこの集会において木村は日本人として唯一人座長に任ぜられ重責を果たした。

研究成果

• [文献書誌] Fukuda,M.,Ishii,A.,Yasutomo,Y.,Shimada,N.,Ishikawa,N.,Hanai,N.,Nagat a,M.,Irimura,T.,Nicolson,G.L.,& Kimura,N20GB01:Decrcased expression of nucleoside diphosphate kinase α isoform,au nm23-H2 gene homclog,is associated with metastatic poteutial of rat adenocavcinoma cells.: Int.J.Cancer. 65. 1-7 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 石川直,木村成道: "転移関連遺伝子-nm23/NDPキナーゼをめぐって-" G.I.Research. 3. 497-507 (1995)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 木村成道: "NDPキナーゼ/nm23研究の最前線" 日経サイエンス. 26(2). 14-16 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Orlov,N.Ya,& Kimura,N.: "Interaction of nucleoside diphosphate Kinase with mecnbranes of the bleached bovineretinal rod outer segments.Effects of pH, ions,and guanine nucleotides." Eur.J.Biochem.(投稿中).
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Ishikawa,N.,Taniguchi-Seto,H,Munakata,Y.,Takagi,Y.,Shimada,N.8.Kimura,N.: "Multiple transcripts for rat uncleoside diphesphate Kinase α isoform are structurally categori2ed into two groups that exhibit cell-specific expression and distinct translation patential." J.Biol.Chem.(投稿中).
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Orlov,N.Ya.,Watanabe,K.,Hanai, N.,Nomura,K.,& Kimura,N.: "Transduciu-mediated,isoform specific inter-action of recombinant rat nuclecside diphosphate Kinases with bleached bovine retinal rod outer segments mecnbranes." (投稿準備中).
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 木村成道(分担執筆): "図説分子病態学(一瀬,鈴木編)" 中外医学社, (1995)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 木村成道(分担執筆): "図説分子病態学(一瀬,鈴木編)" 中外医学社, (1995)553
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Fukuda, M., Ishii., Yasutomo, Y., Shimada, N., Ishikawa, N., Harai, N., Nagata, N.Irimura, T., Nicolson, G.L., & Kimura, N.: "Decreased expression of nucleoside diphosphate kinase alpha isoform, an um23-H2 gene homolog, is associated with metastatic potential of rat adenocarcinoma cells." Int.J.Cancer. 65. 1-7 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Orlov, N.Ya.& Kimura, N.: "Interaction of nucleoside diphosphate kinase with membranes of the bleached bovine retinal rod outer segments.Effects of pH,ions, and gaanine nucleotides." Eur.J.Biochem.(submitted).
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Ishikawa, N., Taniguchi-Seto, H., Munakata, Y., Takagi, Y., Shimada, N.& Kimura, N.: "Multiple transcripts for rat nucleoside diphosphate kinase alpha isoform are structurally categorized into two groups that exhibit cell-specific expression and distinct translation potential." J.Biol.Chem.(submitted).
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より