研究課題
国際学術研究
本研究の目的は、流体現象において広く観察される剥離、渦などを伴う非定常流れについて、高精度で効率良く数値解析する手法を確立することにあり、特に乱流の直接数値シミュレーション(DNS)とラージ・エディ・シミュレーション(LES)を主な研究対象とし、高次精度差分スキームや境界条件などの数学的課題とLES乱流モデルや乱流組織構造の分析などの物理的課題の両面について研究の進展を図ることを主目的としている。これらの課題に対して、中国側研究者は圧縮性流れ解析法、高次精度数値スキーム、および、それらの乱流直接シミュレーションへの応用と分析に研究実績があり、一方、日本側研究者においては非圧縮性流れ解析法、適合格子手法と境界条件、乱流モデル、および、それらの乱流LESへの応用と評価に成果を挙げてきた。本共同研究では、これらの成果を交流し、相互に検証し合うことで乱流現象研究をより精密により効果的に進めようとした。本研究で特に取り上げた、剥離や渦を含む非定常流れは工学的にはポピュラーな課題であるが、乱流解析の対象としては現在広く適用されているレイノルズ平均型乱流モデルによる予測精度が低いことが知られている。DNS、LESは乱流現象を直接数値計算するため、このような非定常現象に関しても高い精度で解析が可能と考えられている。しかしながら、数値シミュレーション手法に関しては、1)時間進行計算法の効率化、2)境界条件の設定方法による数値誤差の改善、3)数値安定な高次精度空間スキームの開発、4)境界適合格子の生成と計算手法の確立、などの課題が、乱流解析の物理的問題としては、5)LES乱流モデルの改良と評価、6)乱流の時空間構造を分析するための大規模数値データの画像化、など複数の課題があり、これらに対する成果を総合することでDNS、LESに必要な大規模計算を効率良く高精度に実行することが可能になる。本年度の研究においては上記の課題から具体的には、中国側研究者により、a)コンパクトスキームを中心とする数値安定な高次精度差分スキームの開発、b)圧縮性乱流混合層の直接数値シミュレーション・コードの開発と検証が、日本側研究者からは、c)高精度で安定な境界条件の設定方法の提案、d)LES乱流モデルとしてダイナミックSGSモデルの改良と評価、e)境界適合格子および非構造型格子におけるラージ・エディ・シミュレーションのためのコード開発と評価、に関する研究が併行して進められた。f)圧縮性乱流混合層の直接シミュレーションの数値計算結果の画像化と分析、g)高次精度差分スキームの非圧縮複雑流れへの適用、について共同研究が行われた。本研究の進行に際しては、通信による定期的な情報交換によって相互に研究成果を評価し取り入れるとともに、各1回2名の研究者を相互に派遣招へいして共同研究の細部を検討した。同時に、他機関の研究者をも交えた研究交流を持つことで広い議論の機会を得た。この結果、共著論文 "Direct Numerical Simulation of Compressible Mixing Layer with High Order Accurate Schemes" を国際会議において発表するとともに、国際誌Computational Fluid Dynamics Journalへの投稿論文の掲載が許諾された。また、間接的な成果として、両国研究者らによる、日中およびアジア関連の国際研究集会の開催企画への貢献が可能となった。これらの共同研究成果を生かし、引き続き圧縮性および非圧縮性乱流に対するDNS、LESの展開を総合的に進めたい。
すべて その他
すべて 文献書誌 (34件)