研究概要 |
急速な近代化によって中国では,生活雑排水,産業排水,農薬の利用などで河川,湖沼の環境水質が富栄養化と同時に洗剤,農薬,重金属などの有害化学物質を汚濁されつつあり,近い将来汚染段階(公害)になることが危惧されている.富栄養化に関しては,水上栽培法によって水質浄化の有効性が立証されている.すなわち.水上栽培法は富栄養化が進んでいる河川,湖沼の水面を使って食料生産を行うと同時に水質浄化も行う新しい技術として注目されている. しかし有害化学物質による水質汚濁は進行中でこれの除去法の確立は急を要するところである.もし水上栽培植物による有害化学物質の河川,湖沼水からの除去法が開発されれば,安価で容易に実施できるので面的拡がりで実施できることからその効果は大きいと考えられる. 本研究は,このような状況,背景のもとで,食料生産,水面緑化,富栄養化した河川,湖沼の水質浄化に有効である水上栽培法によって洗剤,農薬,重金属などの汚濁による河川,湖沼の有害化学物質の除去の可能性を検証することを第1の目的に,有害化学物質の除去に有効な耐性植物の選定を第2の目的として開始された. 本研究が実施される場となった中国水稲研究所には,1991年に水上栽培法を確立した研究分担者の宋 祥甫助教授がおり,水上栽培を実規模で実施できる施設(河川,用水池)及び雨水を遮断して精密に実験できるコンクリート製人工池がある.4人の中国側研究分担者は,各専門分野の研究者から構成されており水上栽培を大規模に実施できる技術研究集団である.従って,中国水稲研究所では野外での成果と人工池での成果を同時に検証することができ,基礎から実用化まで一連の形で研究できる施設及び研究態勢にある.この態勢があればこそ富栄養化した河川,湖沼の水質浄化技術としての水上栽培法を確立することができたのである.唯,本研究で目的とする洗剤,重金属の浄化に関しては,これら成分を分析する機器類はもちろん,分析できる研究者もおらないのが現状である.そこで,本共同研究では,第1段階として,(1)水上栽培法による洗剤,重金属の除去実験を行うための方法を中国側研究分担者に指導すること,(2)中国側の分担研究者を日本に招聘し洗剤,重金属の分析法を十分に習得してもらうことの2点に焦点をしぼって共同研究を実施することとした. 1.水上栽培法による洗剤,重金属除去実験法の指導 a.中国水稲研究所で1994年に実施された富栄養化した河川水の水質浄化試験(コンクリート製人工池)で得られた水稲の器官別植物体材料を岡山大・資生研で分析し,現状での重金属含有率について既往のデータと比較した.分析サンプル数は51点,3反覆で行い,Al,Fe,Mn,Cu,Cr,Ni,Co,Mo,Pb,Cd,Zn,Vについて分析した.これを基礎に今後,中国水稲研で行う実験計画案を持参して日本側研究者は1996年3月15日〜22日,中国水稲研究所を訪問し,中国側研究者と討議し,今後の実験法を確立した. b.1995年11月から実施中の水上栽培小麦に対する洗剤濃度の影響につき生育調査を行うとともに水質分析(洗剤の簡易分析)法を指導した洗剤濃度によって小麦の生育に差異がみとめられた. c.中国水稲研究所の河川,用水池,杭州市の西湖,無錫市の太湖,上海市の揚子江から採水し,もち帰ることができたので洗剤,重金属につき化学分析を行う. 2.中国側研究者に対する分析指導 a.中国側研究者 国燕氏を1996年2月25日〜3月31日まで招聘し,岡山大資生研で洗剤,重金属の分析法について分析法の基本と分析機器の扱い,データ解析,評価等について独立してできるように指導した. b.中国側研究者の宋 祥甫氏を招聘し(1996年3月1日〜15日),日本における水質分析及び洗剤,重金属汚染に関する研究,情報の収集をつくばの3研究所及び岡山大,九州大で行ってもらい,併せて本共同研究のとりまとめにつき打ち合わせを行った.
|