研究概要 |
Surrey大学のJohnson、Tostevin両教授が5月下旬来日し、大阪大学核物理研究センター並びに東工大において討論を行った。Johnson教授の旅費・滞在費は本研究より、またTostevin教授の旅費・滞在費は英国大使館日英文化交流基金より賄われた。核物理研究センターには東工大大学院を卒業し最近理学博士号を取得した豊川秀訓氏が居るので、大沼も大阪に赴き、主として同氏の博士論文のテーマである(p,d^*_<s=0>)反応の実験データと、その理論的解析について4名で討論をした。その後、両氏と大沼は東京に帰り、東工大で主として(d,^2He)反応について、新関等と検討を行った。6月下旬には大沼がオランダグローニンゲンで開かれる巨大共鳴国際会議に出席し、新関と共に(d,^2He)反応について発表した。大沼はその後Surrey大学に行き、約2週間滞在してJohnson、Tostevin両教授との議論をさらに深めた。 日本グループは(p,d^*_<s=0>)反応の実験データをCDCC法で解析したが、Surreyグループは断熱近似理論を用いて同じデータの解析を進めた。両グループの討論の結果に基づき、大沼・豊川等はPhysical Review誌5月号に論文「Coupling effects studied in the ^<13>C(p,pn ^<12>C and ^<13>C(p,d)^<12>C reactions at E_d=35MeV」を発表した。実験データ、特に(p,pn)反応と(p,d)反応の角度分布の違いは、CDCC計算によって一応説明できる。また(p,pn)反応では、大きな相対運動量を持っている状態のnp対の寄与が、(p,d)反応と比較するとより重要であることが示された。しかし連続状態のビンの切り方は、計算上の都合で制約されていて、この解析に用いたビンの切り方ではまだ荒い可能性があり、今後も検討を要する。またTostevin教授は大学院生Gonulと共著で論文「Adiabatic treatment of final states in (p,d^*) reactions」を書き、現在Physical Review誌に投稿中である。後者では、特にnp間の相対エネルギー依存性や、三重状態np対^3S_1の寄与なども子細に検討され、基底状態に対するベクトル偏極量のデータが重要であることが指摘されている。 また、(d,^2He)反応に関する実験結果は上記巨大共鳴国際会議でポスター発表されたほか、8月に北京で開かれた国際原子核物理学会議で、大沼により口頭発表された。東工大グループは(d,^2He)反応断面積の前方角度での強度比からの経験的議論を行い、sd殻核におけるガモフテラー強度分布について論じた。sd殻核の比較的軽い方、^<26>Mgや^<27>A1に対して(d,^2He)反応から得られたβ^+ガモフテラー強度分布は殻模型の予測と比較的良い一致を示す。特に^<27>A1→^<27>Mgのβ^+崩壊に対応するガモフテラー強度分布と、^<27>Na→^<27>Mgのβ^-崩壊に対応するガモフテラー強度分布とは大きく異なるが、この大きな違いは殻模型で半定量的に説明することができる。しかし、^<28>Si→^<28>A1のβ^+崩壊に対応するガモフテラー強度分布は、実験では数本の状態に同程度の強さで分散しているのに対し、殻模型はより強度の集中が見られる。また、^<24>Mg、^<32>Sなどを標的核とした際に、恐らくL=1で励起されるスピンダイポール状態と思われるものがいくつか見出され、その角度分布を理論計算値と比較することはたいへん興味深い。Surreyグループは現在このデータをGlauber近似を用いて解析中であり、この反応の反応機構についてさらに詳細な知見が得られることが期待されている。またその解析に際し、Surreyグループより270MeVでの重陽子弾性散乱のデータが要請されており、理研で東大グループが中心となって取得したデータがあるので、現在解析中である。
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