研究課題/領域番号 |
07202102
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研究種目 |
重点領域研究
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
志村 洋子 埼玉大学, 教育学部, 助教授 (60134326)
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研究分担者 |
斉藤 こずゑ 國學院大学, 文学部, 教授 (70146736)
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研究期間 (年度) |
1995
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研究課題ステータス |
完了 (1995年度)
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配分額 *注記 |
1,300千円 (直接経費: 1,300千円)
1995年度: 1,300千円 (直接経費: 1,300千円)
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キーワード | 乳・幼児 / 音声 / コミュニケーション / プロソディ / ジェスチャー / 注意調整方略 / 音声の感情認知 / 話者音声認識 |
研究概要 |
平成7年度は、これまで継続して行ってきた実験の中から、1)母子相互作用場面における注意調整方略の分析と子どもによる認知実験研究、2)幼児の乳児音声の感情情報及び成人・幼児・乳児音声の個人性情報の認知実験研究、を中心に検討した。 その結果、まず、1)に関しては、半統制的な相互作用場面で母親の用いる注意調整方略を抽出し、子どもの側における注意の社会化や子ども自身の注意調整方略の発達を調べ分析したところ、場面による母の行動変化に応じて子どもの注意調整方略に変化が見られ、子どもの側でも異なる反応を示した。母親による子どもの言動の模倣相互作用では、12ヵ月以上の子どもに、あきらかに模倣されていることに気付く反応が見られ、気付いた時点の前後で発声量は変化し、母親に対する反応確認のための注視が増えた。さらに、実験場面で使用した刺激音と子どもの発声とを全て音響分析し、類似性を分析した結果、12ヵ月以上の子どもが刺激音に応じた発声が多く、音声特性も類似していた。このことから、子どもの音声認知の方略の一つとして、受動的知覚ではなく、能動的模倣が、新奇な音・音声の同定、音に表出した感情情報の認知に寄与している可能性がある。 2)に関しては、(1)成人の聴取実験に基づいて分類された2カ月乳児の「快」「不快」音声を用いて、幼児による乳児音声の感情的要因(感性情報)の聴取傾向を、乳児の表情を評定尺度として検討した結果、幼児の年齢によって快、不快の評定に差異がみられ、「不快」音声についての評定の一致率は年齢の上昇と共に高くなるものの、「快」音声への一致率は低下した。これらのことから、幼児の乳児音声の非言語的情報の認知は、成人の聴取判断とほぼ同様であるものの、聴取評定項目によっては成人より豊かな聴取傾向を持つ可能性が示唆された。 また、(2)音声の個人性情報の認知能力の発達を4つの実験で検討した。第1実験では言語情報、感情情報を一定、個人性情報を変数とし、話者は既知話者を中心にし、少数の未知話者も入れ検討した。第2実験では被験者年齢を上げ、さらに話者認知における年齢差、社会的関係差、音質の音響特性差の検討を行った。第3実験では、話者との社会的関係を統制するため、話者を未知話者に限定して行った。第4実験では、感情情報、個人情報の相互作用関係をさまざまな属性をもつ7種の話者対比較条件で検討した。言語情報は一定に統制する条件と、理解困難な条件(外国語、方言、前言語、幼児語)を用いた。これらの実験から、3〜5歳の幼児でも母親以外の既知話者の話者認識が可能であることに加え、未知話者の識別も可能なことがわかった。また未知話者では、性差、年齢差などの社会的カテゴリに基づく識別が最も容易で、非母語、方言、前言語などの言語情報劣化の場合には話者識別も影響されたこと、さらに、感情認知は話者認識とは必ずしも同じ条件で難易傾向を示すのではなく、言語情報劣化の影響もあまり顕著ではないことが分かった。 以上のことから、今回の一連の実験で実際に幼児が行った課題の解決過程では、聴覚、視覚刺激を対応づける認知過程が働いていたことが明らかになった。今後は、音声における個人・感情両情報の関係のみならず、視覚における個人・感情情報の関係、さらに個人・感情情報処理における視覚、聴覚情報の相互影響関係をも考慮した認知過程の検討が必要であると考える。
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