研究概要 |
今年度は、地域性の形成における人工要因の作用の問題を重点的に研究の対象とした。その際,歴史的に人口稀薄地帯であった東南アジアと、人口稠密地帯であった東アジアの比較を,人口問題と親族制度のあり方との関連に焦点をあてつつ研究を進めた。研究分担者の一人である上田が提唱した親族類型,すなわち形容詞的関係(中国),動詞的関係(タイ),名詞的関係(日本)という仮説をめぐって、こうした親族制度の類型そのものの可否,およびこうした類型と人口要因との関連について研究を深めた。東南アジアのいわゆる動詞的親族関係は,人口が稀薄で,開拓の余地が十分にあった東南アジアの環境に相即的なものであり,移動ということを前提とした親族関係であると諒解される。しかし中国の父系血縁組織である宗族も,漢族の膨張-すなわち人口増加と移民-が顕著になる明代以降になってその結合が強められるのであり,移民ということを宗族の生き残り戦略の中に組み込んでいると見られる。したがって人口の多寡・開拓余地の有無という要因と,親族制度のあり方との関連の問題については、なお検討を進める必要があることが確認された。また人口稠密地帯である東アジアの中でも,朝鮮・日本は,中国とは異なった親族制度のあり方を示しており、この問題についても検討を行った。朝鮮や日本の親族組織は、開拓の余地がほぼ消滅すると考えられる17〜18世紀になって発達してくるのであり、この点で人口と移動と開拓というものを前提とした東南アジアや中国とは、また異なった類型として考える必要があることについても検討を進めた。
|