研究概要 |
本研究は,言語学的研究,特に言語地理学的研究の先端的な試みとしてスイス・ロマンシュ語方言をとりあげ,現地収集した資料を基礎データとして取込みコンピュータ処理することによって,音声・形態・統語・語彙の各レベルにおける干渉現象を統合的に再構築するマルチメディア型言語地図作成プログラムを開発することを目的とする。人文科学に於けるコンピュータ利用の一分野としては,言語・民族資料のディジタル化,三次元的コンピュータ・グラフィックスによる空間的イメージ化,時間軸上に展開するマルチメディア・データベース作成プログラムの開発などの先端的な研究に向かう可能性を持つ。 本研究は3年計画で立案されているが,本年度は過去に蓄積していた言語・民族資料のデジタル化に多くの時間を費やした。従って,本年度の研究は,本格的なマルチメディア化は先送りにせざるを得なかったが,それに至る前の試行錯誤的な段階として,マルチメディア言語地図の簡略版を作成した。 (1)地図の作成:アップル社マッキントッシュ・パソコンと多機能データベースソフトであるHyperCard2.3Jを使用して,そのBackgroundに基本的な地図を描き,言語地図上に各種情報(海岸線・国境線,川,道路,市町村名,調査地点名等)を選択的に記載させる作業を行った。言語地図の作成には多大な労力が必要であるので,この作業を自動化できないかどうかを試みる必要がある。来年度には,カラー・スキャナーと色補正ソフトを導入して必要なフィルタをかけ,有意味な線だけを取りだして識別させ,自動描画を試みるつもりである。 (2)HyperCardのボタン機能を利用して,上記の文字情報だけでなく,音声や図像も埋め込んで,選択的に表示あるいは再生させ,マルチメディア的なプレゼンテーションがある程度可能になるようにプログラミングを行った。 来年度以降の計画は,引き続きアナログ的な資料として蓄積されているこれまでのデータをディジタル化し,音響学的処理,静止画像処理,動画処理などを進める。準備段階としてスイス・アルプス地方の等高線を利用した三次元的グラフィックスの作成に従事する。言語資料のみならず,図像資料や民族資料を活用して,三次元的な空間表示のなかにコンピュータ・グラフィックスの技術によりイメージ化してゆく。特に,スイス・アルプス地方の自然地理・人文地理的環境におけるレト・ロマンス語諸方言の言語史を三次元的言語地図として時間軸の上に統合的に展開させるオーサリング・システムの開発を視野に入れたいと考えている。
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