住は1991年来、(1次および2次反応を含む)溶液反応の速度定数が一般的に1/(k_<TST>^<-1>+k_f^<-1>)でk_f∝η^<-α>(0<α<1)いう形を持つことを主張してきた。ここでk_<TST>は化学反応速度の標準理論である遷移状態理論(TST)から期待される速度定数であり、ηは溶媒の粘性率である。1991年浅野(大分大工)は、アゾベンゼン類の光異性化反応において圧力により溶媒粘性率を大幅に変えることによって、速度定数がTSTにより記述される(低圧、即ち、低粘性溶媒)領域から、TSTの基本仮定がもはや成立しなくなる(高圧、即ち、高粘性溶媒)領域までを一つの反応系で実現する実験データを発表した。これは溶液反応の速度定数に関する一般式を検証する格好のデータである。1994年、本重点領域研究による補助金を得て行った研究により、住は浅野の協同して、このデータが住が提唱してきた溶液反応の速度定数の一般式を実験的に検証するものであることを明らかにした。今年度は浅野との協同研究を更に発展させた。その結果、実験データを理論式に合わせることによって得られたαの値が、反応遷移状態における溶質分子溶媒和構造の自由度(溶質分子の異性化部分の回転の自由度、分子構造の極性の違いや溶媒の極性およびプロトン性などから来る溶媒ゆらぎの自由度)に系統的に依存することが明らかになった。更に、αの値が1より小さくなるための理論的条件式を一般的に求めることにも成功した。これらの研究は、この一般式における実験と理論の対応をさらに強化すると共に、溶液反応の一般式を確立するための重要な過程となる筈である。
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