過酸化アルキルラジカルは、炭化水素の酸化過程における初期の段階に反応中間体として存在し、ラジカルの反応性が酸化反応の反応機構を大きく左右していると考えられ、多くの実験的研究がなされているが、反応障壁、遷移状態や反応中間体といった詳細な反応経過は明らかになっていない。本研究は理論的計算をもとにこの機構の検討を行い、次の結果を得た。(1)2つの水素結合を持った環状dimerよりジメチルテトラオキサイドの方が9.4kcal/mol安定で、かつ環状dimerから水素引き抜き反応をおこす場合の反応障壁が42.1kcal/molと高いことから、反応は全てこのテトラオキサイドを経て進行すると考えられる。(2)このテトラオキサイドは"C_2対称性構造"と"分子水素結合を持つ6員環構造"の2種類があり、それぞれの振動解析の結果と実験値は良い一致を示している。(3)テトラオキサイドからメトキシラジカルと三重項酸素に分解する経路では段階解離物であるCH_3OOOは得られず、協奏的に解離しメトキシラジカルdimerが生成しその反応障壁は6.1kcal/molと低い。(4)メトキシラジカルdimerは三重項と一重項がエネルギー的にほぼ縮重しており、dimerの解離に必要な障壁は4.2kcal/molであり、メターノールとホルムアルデへの反応障壁として4.7kcal/molが得られた。(5)一重項メトキシラジカルdimerから過酸化ジメチルが生成する反応障壁は1.2kcal/molと低い値を与えるが、過酸化ジメチルはさらに反応が可逆的に進行して他の生成物を与えるため、見かけの生成比は小さいと考えられる。(6)実験で提唱されたテトラオキサイドから六員環状の遷移状態を経てメタノールとホルムアルデヒドを生じる協奏過程や、四員環状の遷移状態を経て過酸化ジメチルを生じる協奏過程は、いずれの場合も反応障壁は高い。以上の結果から、self-reactionはテトラオキサイド中間体から出発しメトキシラジカルを経由し進行し、この際反応温度が高いとdimerは三重項で拡散しメチルオキサイドが生成し、低い反応温度の場合の一重項を経て水素引き抜き反応によりメタノールとホルムアルデヒドを生じると考えられる。
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