平成7年度の研究活動は、凝縮系の化学反応における溶媒効果を、反応系と熱浴の基準座標に関してそれぞれ一次と二次の非線形相互作用を取り入れた溶液系の微視的ハミルトニアンを基礎に摂動論的取り扱いを行い、並行して化学反応分子動力学法のシミュレーション的研究を実行するために、反応分子内あるいは分子間のポテンシャル関数を求めるための経験的原子価結合(EVB)法を用いて、溶液内化学反応における反応エネルギーの起源とその移動機構を原子・分子レベルで解析した。具体的には次のような詳目内容に分けられる。(1)溶液反応系の上述の非線形相互作用項を含んだ微視的ハミルトニアンを摂動論的に扱うことで、反応系と媒質系の構造を考慮した微視的化学反応理論を展開した。そうして得られる一般化ランジュバン方程式による反応系の動的溶媒効果や非平衡性を第一原理から取り入れた反応速度定数が、平衡論に立脚する遷移状態理論の予測から座標の3次のオーダーで擦れることを初めて蟻酸分子に関して示した。これらの結果は、International J. Quantum ChemistryとJ. Molecular Liquidsに公表された。(2)溶液系の熱的化学反応における反応エネルギー流れの集中と散逸の詳細な機構を明らかにするために、水溶液中のフォルムアミジンの異性化反応をモデル反応として、化学反応分子動力学シミュレーションを実行した。その結果、溶質系に流れ込む水溶媒系の運動エネルギー変化とポテンシャルエネルギー変化の比は水溶媒の比熱によって決まることが判った。また、反応にともなった溶質系の部分モル比熱は遷移状態に到達する0.07ps前に急速に増大するカスプをもつことが判明した。(3)確率過程に基づいた量子化法によりH_2+H→H+H_2の反応速度定数を量子力学的遷移状態理論の枠組みに沿って計算する手法を開発した。
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