研究概要 |
数学における指数あるいは指数定理と呼ばれるものは、物理における場の量子論において重要な役割を果たすことが知られている。例えば、Riemann‐Rochの定理は,2次元量子重力とか弦の量子論でゴ-スト数の量子異常として基本的な役割を果たす。更には,Atiyah‐Singerの指数定理と場の理論におけるカイラル量子異常とは密接に関係している。 著者は最近,光の振幅に現れる位相およびそれを記述する位相演算子の数学的記述と指数概念の密接な関連を指摘し研究を進めた。すなわち、光子場に対してはエルミートな位相演算子が定義できないことと,非自明な指数を運ぶ演算子(あるいはマトリクス)は、エルミートな位相項と振幅の実部に分離出来ないという性質を,結び付けて考察することである。この研究の過程で、位相演算子の問題はBose粒子が無限個同じ量子状態に入り得るという無限大の自由度と密接に関係しており、それに付随した全く新しい種類の量子異常の存在を明かにした。 生成消滅演算子で記述される,いわゆる振動子代数(oscillator algebra)の量子変形においても、負の計量が現れずしかも指数概念が∞引く∞といった特異な状況に遭遇しない限り,指数の概念および指数条件は有効であり、従って一般にはエルミートな位相演算子は定義されない。しかし,量子変形の過程で,指数が∞引く∞といった特異な状況で定義されている点を通過する場合も一般にはあり、この場合には指数による位相演算子に対する制約は有効ではなくなる。換言すれば、指数を注意深く考察することにより、量子変形が滑らかな変形ではなく特異点を通過しているか否かが判定出来ることにもなる。
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