研究概要 |
現実の準結晶を、数学的にはどのように定義すべきか、いまだ定説はないが、我々は、ユークリッド空間における準周期的かつ離散的な点集合を準結晶の数学的モデルと考え、これについて研究した。ここで「準周期的点集合」とは、その任意の有界部分集合と平行移動により移り合うような部分集合を無限個含むような非周期的点集合のことである。準周期的な離散的点集合を構成するための、標準的な方法として「高次元射影法」があげられ、たとえばルート格子に高次元射影法を適用する試みも既に行われている(Conway-Sloane,Moody-Pateraなどの研究)が、川中は矢野環氏によるルート系の折り畳みの概念を高次元射影法の観点から再検討し、準結晶の理論的研究において、「インフレーション」とよばれる作用素 T が、このようにして自然に導入されること、作用素 T とルート系のワイル群 W で生成される群が組み紐関係式とよく似た関係式を満たすことなど興味ある結果を得た。矢野氏の上記の構成法は、その後、正多面体の研究に関連してCoxeter等により、また特異点の研究に関連してSherbakにより再発見されているので、準結晶の理論とこれらの分野との関係について調べることも、今後の研究課題として期待される。
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