研究概要 |
雲仙普賢岳で,この4年間に噴出した溶岩の噴出率とドームの形状,崩落,および,溶岩の組成の間には相互に密接な関係がある。これは噴出率変化を引き起こすマグマ溜りの過剰圧変化がマグマ中に捕獲される斑晶の割合変化を引き起こし,その結果,溶岩組成・溶岩ドーム成長・破壊の変化が生じたものと考えられる。溶岩の噴出率変化は600日程度の周期をもつ2つの大きな波であり,最初の波頭がより高い。溶岩ドーム全体のアスペクト(高さ/長さ)比の変化は噴出率の変化と良く似た周期とパターンを示しているが,波頭の位置は明らかにずれている。溶岩噴出率のピークがアスペクト比の小さくなるのに100日〜250日先行しているのに対し,アスペクト比と溶岩の化学組成変化は良く対応している。アスペクト比が小さくなると溶岩は珪酸分に富むようになる。ドーム全体の見掛けの粘性の大小をアスペクト比の大小と考えると,珪酸分に富む(珪長質である)ほど見掛け粘性が小さくなるという,一見,普通とは逆の現象が見られる。 溶岩の化学組成変化は斑晶組成変化と良い対応を示している。溶岩は斑晶が少ないほど珪長質になり,多いと苦鉄質になる。ガラスの化学組成や斑晶の化学組成に有為な時間的変化が認められないことから,斑晶量の多少が溶岩の化学組成を決定していると考えられる。全斑晶の70%以上が斜長石であり,25%程度が苦鉄質鉱物(主に角閃石と黒雲母)と5%程度が石英である。全岩と分離した石基の組成(SiO2=67%)および斑晶量から計算される斑晶全体の組成はSiO2=約55%である。斑晶が多いほど苦鉄質になり,上の項で見られた,苦鉄質になるほど見掛けの粘性が高くなることと合致する。
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