研究概要 |
共役エノンはMichael反応,Diels-Alder反応などの巾広い付加反反応を行うことができるので,合成化学における最も重要な原子団の一つである.我々はエノンを内蔵する複素環の配座を制御することにより高い不斉環境場を構築し,エノン部位での各種付加反応の高いπ面選択性を活用して効率的な不斉合成法を開発してきた.本重点研究では,この目的に沿って研究を進め,以下の成果を得ることができた. 1 1,3-ジオキシン-4-オン体は各種の付加反応において高いπ面選択性を示し,広範な生物活性化合物のエナンチオ制御合成中間体として機能する.本系化合物はソファー型配座を持つが,これへのMichael付加及び接触水素付加はその上面(上面は立体障害がより大きい)から高選択的に生起する.近年,非等価なπ面への付加の立体選択性発現機構が大きなトピックとなっていることもあり,この異常な立体選択性の発現機構は極めて注目されてきた.我々はジオキシノン体の2位に種々の置換基を導入し,それらの配座と付加反応のπ面選択性を解明しえた.この結果から,このπ面選択性が二つの立体電子効果,即ちいわゆるCieplak効果とアノマー効果のバランスにより発現することが強く示唆された. 2 2位置換2,3-ジヒドロ-4-ピロン及び6位置換5,6-ジヒドロ-2-ピロン体のエノン部への各種付加反応におけるπ面選択性を解明した.本系の選択性もジオキシノン体と類似しており,ジオキシノン体と同様の立体電子効果により発現することが強く示唆された. 3 キラルな6,7-ジヒドロオキセピン-2-オン体の配座をX線解析,NMR,分子軌道計算等により決定し,同時にその各種付加反応におけるπ面選択性を初めて明らかにした.本系化合物の選択性は夫々の反応の遷移状態の立体化学により大きく支配されて発現することを解明しえた.
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