研究概要 |
クライゼン転位反応は天然物合成にも汎用されており、有機合成化学上、重要な炭素炭素結合形成手法のひとつである。しかしながら、クライゼン転位に有効なルイス酸触媒はあまり開発されていないのが現状である。本研究者は、既にアルミニウム トリス(2,6-ジフェニルフェノキシド)(ATPH)が機能性ルイス酸としてアルデヒド、ケトン類のカルボニル基の安定化に有効な“cavity"を持っていることを見出している。今回、このATPHをα-置換型アリル ビニル エーテルに適用したところ、顕著な立体選択性が認められた。例えば、α-ブチル化されたアリル ビニル エーテルをATPH存在下、低温で反応させると円滑にクライゼン転位を起こし、生成した不飽和アルデヒドをそのまま還元するとE体の不飽和アルコールが主に得られた(E/Z比=16:1)。一方、配位子をひとつ減らしたメチルアルミニウム ビス(2,6-ジフェニルフェノキシド)(MAPH)を用いると、収率、選択性ともに低下してしまった。さらに、ATPHより優れた“cavity"を持つと予想されるアルミニウム トリス(2-α-ナフチル-6-フェニルフェノキシド)(ATNP)を設計することによりほぼ完璧なE-選択性が得られた(E/Z比=47:1)。続いて、これらの知見をもとにATPH型の光学活性アルミニウム反応剤の創製に取り組んだ。必要となる光学活性配位子は、市販の光学活性ビナフトールから数段階を経て合成した。この光学活性配位子、3当量をトリメチルアルミニウムと反応させることによって新たな光学活性アルミニウム反応剤、アルミニウム トリス((R)-1-α-ナフチル-3-フェニルナフトキシド)((R)-ATBN)を創製した。そこで、γ-位に置換基を有するプロキラルなアリル ビニル エーテルの不斉クライゼン転位に用いたところ、まずまずの光学収率が得られた。その後、さらに光学活性配位子の改良を試みたところ(R)-ATBNの誘導体である(R)-ATBN-Fを設計することによって光学収率の大幅な向上が見られた。
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