研究概要 |
本研究では光学活性錯体を直接電極表面に結合させ、それによって生じた不斉テンプレート場で不斉反応を誘起することを目的した。 錯体配位子の両方の末端にそれぞれNがΔとΛの等量混合物ラセミ体Os錯体[Os(bpy)_2LC1]^+(L≡4,4'dipyridylethane)をJ. Phys. Chem., 95,9590(1991); Inorg. Syn., 24,291に従って合成し、それをΔ体とΛ体とに光学分割することに成功した。これらをセルフアセンブル法で直接電極Pt表面に結合させた。 光学活性なΔ体とラセミ体[Os(bpy)_2LC1]^+の電流電位曲線(CV)を観察したところ明らかな違いを観察した。ラセミ体のCVはΔ体のCVに較べて鋭い電流電位曲線を示している。それぞれの半値幅は120,210mVであり、吸着時間が短いときにはΔの吸着量はラセミ体に較べて少ないが、時間と共にラセミ体の値に近づいている。これはキラル体とラセミ体錯体の自己集積過程において違いがあることを示唆している。 すなわち、ラセミ体での半値幅は吸着種間に相互作用のないLangmuir型吸着の90mVに近いので錯体間反発相互作用は小さいが、キラル体では反発相互作用が大きい事、吸着量も短い時間ではラセミ体の吸着量に較べて低い値であることはセルフアセンブルする際の構造的な要因でこのような違いが出てきたと推定している。 この方法により電荷移動反応の速度を高めると共に錯体の電極に対する構造が規定され得るので規格化された不斉場における不斉反応を観測しうることと更にその反応メカニズムの解明が可能になると考える。
|