研究概要 |
金属原子間結合をもつ多核錯体しばしばI電子酸化・還元を受けて安定なイオンラジカルを生成する.これらイオンラジカル塩は、酸化還元力の制御された試薬、あるいは機能性素材として利用することが出来ると期待され、それらの酸化還元電位や物性の配位子依存性を理解してゆく上で、これらイオンラジカルの不対電子軌道の形と性格を明らかにすることは重要である。そこで、多核錯体のI電子移動に伴う幾何構造変化の実測値と分子軌道計算と相補的に用いて、遷移金属多核錯体イオンラジカルの不対電子軌道の形を明らかにする方法論の開発を目指し本研究を実施した。 ホスフィンを軸配位子とするRh(II)の複核錯体、[Rh_2(O_2CC_2H_5)_4(PR_3)_2|、(R=i-C_3H_7,cyclohexyl)、のCVは2段階の化学的に可逆なI電子酸化波を示した.これら錯体を[Cp_2Fe]^+(SbF_6)^-により酸化してカチオンラジカル塩を合成単離し,単結晶X線構造解析を行った。I電子酸化に伴って、Rh-Rh結合距離は0.05A長くなり、Rh-P結合距離は著しく短くなる(0.12A)ことが明らかとなった。 ab initio Hartree-Fock法により[Rh_2(O_2CH)4L_2]、(L=PH_3,H_2O)、の電子状態を計算した。i番目分子軌道からのイオン化による原子AとBの間の結合エネルギーの増分、e_<AB,i>を新たに定義導入し、[Rh_2(O_2CH)_4(PH_3)_2]^+のSOMOはRh-Rhσ結合性の軌道で,Rh_2(O_2CH)_4(H_2O_2]^+のSOMOはRh-Rhπ反結合性軌道であると仮定して計算されたe_<AB,i>とイオン化に伴う結合距離変化(△R)の実測値を比較すると、e_<AB,i>と△Rの間には良い相関が見出された。他の錯体についてもe_<AB,i>とイオン化に伴う結合距離変化の実測値と比較し、イオンラジカルの不対電子軌道を帰属できると期待される。
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