研究概要 |
高循環性が要求される触媒反応において、中心金属と配位子間あるいは錯体と基質間での円滑かつ合目的的な電子移動の制御がその効率増強の鍵となる。本研究者らは、複雑なレドックス系をもつルテニウムのなかでも、とくに高い水素分子活性化能力を有する2価ルテニウムに着目し、反応の基底状態から遷移状態への移行にともなう構造変化に柔軟に対応できる「構造の動的しなやかさ」と「活性種の単一化」に効果的な2,2′-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1′-ビナフチル(BINAP)を配位子とするルテニウム(II)錯体を考案し、近傍に配位性ヘテロ原子を有する種々の不飽和化合物をて高いエナンチオ選択性で水素化する方法論を開拓した。これまでに、エナミド構造をもつ2-アシル-1-アルキリデン-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン類の水素化を取り上げ、イソキノリンアルカロイドの一般不斉合成法を確立するとともに、BINAP-Ru錯体の電子的・立体的構造の触媒活性・立体選択性に及ぼす影響、反応基質構造とエナンチオ選択性との相関性の調査、エナミド基質の基底状態構造の精密解析、分子モデリングのよる高エナンチオ選択性発現理由の考察を行い、エナンチオ面選択機構に対する理解を深めてきた。平成7年度では、これらの研究路線をさらに押し進めるとともに、速度論実験装置や簡易H2/HD/D2分析装置の制作、核磁気三重共鳴法によるアイソトポマーの帰属法などの技術的基盤を構築し、詳細な水素化および重水素標識実験の結果からエナミド類の水素化の反応経路を明らかにすることができた。
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