研究概要 |
パイ共役高分子は極めて興味深い化合物群であり,これまで活発な研究が展開されてきた.最近,その新しい構成単位としてシロール環が注目されている.我々は,本研究においてジイン類の還元的分子内環化反応による2,5-二官能性シロールの一般的合成法を開発し,それを基に種々の含シロールパイ電子系化合物の合成にすでに成功している.その中でもポリシロールのモデル系であるオリゴシロールは紫外可視吸収において著しい長波長吸収を示し,その差はその炭素類縁体であるビシクロペンタジエンとを比較した場合58nmにも達した.これらの結果は,シロール環の特異な電子構造の発現を示唆する結果である.そこで我々は,今回,シロールの電子状態について理論計算により詳細に検討した. 非経験的分子軌道計算によりシロールとその炭素類縁体であるシクロペンタジエンとの電子構造を比較したところ,シロールの著しく高い電子親和性が明らかとなった.すなわち,シロールのLUMOは極めて低いレベルに位置し,そのLUMOにおいて,ケイ素上に隣の炭素上のローブと同位相のローブを持つという特徴を示した.これらの現象は,半経験的分子軌道計算により,環外ケイ素σ結合とブタジエンのπ電子系とのσ^*-π^*共役に起因することが明らかとなった.次に,ビシロールの電子構造についてビシクメペンタジエンとの比較という観点から検討した.シロール類の特異な電子構造は,π共役系が拡張されたビシロールの電子構造にも反映され,ビシロールも高い電子親和性を示し,またケイ素上のローブの発現が見られた.この結果は,上述のビシロールの特異な光学特性の発現がシロール環の特異な電子構造,すなわち,σ^*-π^*共役に起因していることを意味している.
|